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道化の国
契約


今までにない最高の目覚めを迎えたマスカーレイドは、隣でいまだ寝息を立てるユリアを眺める。

怯えた様子も、哀しげな顔も、ましてマスカーレイドを拒絶する様な表情はなく。
ただ、穏やかな空気を纏い、静かに眠るユリアが側にいる。

それはまどろんだ今を益々気分良くさせるもので、温かな人肌に安心感を覚えた。

散々ベッドを共にした女はいたものの、それ等からは一切感じた事のない何処か救われるような気持になる。
ユリアの隣にいる自分は、安息の地を与えられたように感じられた。

白いシーツに映えるのは深い緑色の髪。
その色合いがまでもが、マスカーレイドの心を掴んで離そうとしない。


「契約・・・、しようか・・。」


マスカーレイドは投げ出された髪を一筋掬い口元に寄せ呟くと、閉じていたユリアの瞼が動きゆっくりと開いていった。


「・・・・マスカーレイド・・さん・・。」


寝ぼけたようにマスカーレイドを見つめ、徐々に意識が覚醒してくると視界に捉えたその姿に笑みを見せた。


「おはよう、ユリア。良く眠っていたね。」

「とても・・気持ち良くて・・、まだ夢なのかって思えるくらい・・・、身体がふわふわしてます・・。」


穏やかな声を発するユリアは、マスカーレイドの肌に頬を寄せ夢見心地でいる。
優しい眼差しを向けられているユリアには、その視線すら安堵する材料になっていた。

再び眠りに落ちそうになるユリアの顔にかかる髪を払い、今度はユリアに聞こえるように話した。


「ユリア、契約・・しよう。」

「契約・・ですか?」


どういう意味なのか全くわからないユリアは、マスカーレイドに視線を合わせ不思議そうに返事を待つ。


「そう、君は俺の希望の光だって言う証を・・、此処に印すの。」


マスカーレイドは自分の胸に置かれたユリアの左手を取り、薬指を指先でなぞった。
ユリアの様子を窺っていれば、何か考えている風だった表情が緩やかな笑みを描いた。


「マスカーレイドさん、お願いします。私・・、証を貰っても良いですか?」

「勿論、喜んで。」


マスカーレイドはなぞっていた薬指に唇を寄せ、気恥ずかしそうにするユリアに頬を緩めて見せた。



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