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道化の国
慈しみと拒絶3



嗚咽を漏らすユリアが落ち着くまで耳元で名を囁けば、荒かった呼吸が徐々に大人しくなっていった。


「ね、ユリア、聞いて?俺はそんな事全然思っていない。これからお風呂に入って綺麗になって、新しいユリアになろう?」

「・・・・新しい・・私・・・。」

「そう、ユリアは生まれ変わるの。過去の事は俺が忘れさせてあげる、だから・・・。」


俯いていたユリアが恐々と顔を上げ、揺らいだ瞳がマスカーレイドの瞳を捉える。
哀しくも慈しむような瞳のマスカーレイドはユリアの髪を梳き、首を傾げて様子を窺う。


「俺が洗ってあげる、綺麗に。今のままでも十分綺麗だけど、もっと綺麗にしてあげる。」


半ば虚ろなユリアの手を引き、マスカーレイドはバスルームへと向かった。


ユリアの服を脱がし、バスタブに腰を下ろさせた。
服を着たままのマスカーレイドはシャワーを開き湯温を確かめ、ユリアの足元から湯気を立たせる湯をかけていった。


「熱い?」


ユリアは問い掛けにかぶりを振り、それを見たマスカーレイドは安堵する。


「先に髪を洗うね。」


マスカーレイドはユリアが頷くとシャワーをかけ、髪を湿らせる。
緩やかな波打つ髪に湯が滑り、水が含んだ髪がユリアの身体に纏わりつき始める。

所々に男の物と思われる精液が髪に付着していて、それ等を流しながらマスカーレイドは顔をしかめる。
考えるのもおぞましい程の行為を現す証拠が、身体の至る所に生々しく残っている。

狂おしいまでの自分への怒りを胸に、唇を噛み締め息を詰まらせた。

しかしその思いをユリアに悟られぬよう掌でシャンプーを泡立て、長い髪を丁寧に洗う。
僅かに心地良さそうに瞳を閉じたユリアはマスカーレイドの指の感触を地肌に感じ、少し頭を垂れる。

泡立つ音がユリアの眠りを誘うように、優しく響く。


「流すよ?・・ユリア、上・・向いてくれる?」


マスカーレイドの急な呼びかけに、呆けていたユリアは少し驚くがその要求に素直に従った。
俯いていた顔は徐々に上に向けられ、隠れていた顔がマスカーレイドの前に晒される。


「瞳を閉じてて、・・流すよ。」


出来るだけ飛沫を飛ばさぬよう、マスカーレイドは注意を払いながら髪を覆う泡を流す。
全て流しきると、バスルームを出てバスタオルを持って戻ってきた。
雫が滴る髪を軽く拭き、濡れた髪をバスタオルで包み込んで身体にかからないように頭上で一つに纏めた。


「じゃあ、今度は身体ね。」


スポンジに泡をたっぷりと含ませ、傷に触らぬよう丁寧に洗い上げる。
ユリアは上る湯気を眺め、何処か心此処に在らずと言った様子だ。

シャワーの激しい水音だけがバスルームに響き、二人は黙ったままでいる。

瞬く間に泡に包まれたユリアにマスカーレイドはシャワーで泡を流し、湿気のこもるバスルームを後にした。



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