道化の国
混乱
マスカーレイドのフィールドに入ると、ユリアが怯えたような瞳で扉に縋るように立っていた。
涙で頬を濡らすユリアはその場にしゃがみ込み、ガタガタと震え始めた。
「どうしたの?」
心配そうにユリアの元へ駆け寄り、マスカーレイドはその肩を抱き締める。
「怖い・・・、夢にまで・・、男の人・・・、いやだ・・、何が夢で・・現実なのか・・わからない・・、マスカーレイドさんは・・夢なの・・?今は夢なの・・・?」
「錯乱しているようですね。」
遠巻きに見ていたセンリが声を出すと、ユリアは目を見開き小さく悲鳴を上げた。
「大丈夫、センリは怖くないよ。」
「イヤ・・いや・・・・怖い・・怖い・・。」
聞く耳を持たないユリアは震えたままマスカーレイドにしがみ付き、怯えた瞳を揺らめかす。
その様子に見かねて美咲がユリアに、恐る恐る近寄った。
「私は美咲、ユリア大丈夫。センリは怖くないの、私の大事な人だから・・。」
美咲がユリアからセンリに視線を移せば、センリは苦笑いでそれに応える。
「美咲・・さん・・。」
「大丈夫、怖くないよ。私達はユリアを傷つけるような事はしないから安心して。」
ユリアはマスカーレイドに隠れるようにセンリを盗み見し、それに気付いたセンリは柔らかな笑みを見せた。
驚いたように身体を跳ねさせ視線を逸らすが、美咲の言葉に小さく頷いた。
「ユリア、皆俺の友達だから安心して。ちょっとだけ話をしても良い?」
「・・・は・・い・・。」
ユリアはマスカーレイドに抱きつき、背中に顔を埋め香りを堪能するように大きく息を吸い込んだ。
フィールドに染み付いたマスカーレイドの香りよりも濃厚な酔いに、花に群がる蝶の如くその背で羽を休めるようにしがみ付いた。
「立ち話もなんだから座ろう?」
マスカーレイドは皆を促し、センリにも声をかけた。
美咲の腰を抱くように腰を下ろしたセンリが、ゆっくりと口を開く。
「ユリアも希望の光なのではないですか?」
「センリもやっぱりそう思う?」
マスカーレイドの影に隠れるようにするユリアを眺め、美咲はセンリの言葉に同意する。
「美咲も何か感じますか?」
「うん・・、雰囲気が今までに会った人達と全然違うし・・・。」
「マスカーレイドに寄り添ってうっとりする様なんかは、最初の頃の美咲を思い出しますね。」
出逢った頃を思い出したのか、センリは美咲の腰を引き寄せ口の端を上げて妖しく微笑む。
「思い出し笑いはフィールドに戻ってからにして。・・・でも、俺もユリアが特別に思えてならないんだよね。」
「マスカーレイドがそう思っているなら、そうだと思いますよ。私達が心から安心出来るのは、希望の光の前だけですからね。」
「うん、・・・ユリアがいると安心する・・、今まで味わった事のない感情が出てくるのがよくわかる。」
しがみ付くユリアをチラリと見やり、マスカーレイドは今までにない穏やかな気持ちで笑みを漏らす。
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