道化の国 不透明な存在1 「一体どうしたと言うのですか?」 訝しげにするセンリは、ソファに浅く腰を下ろしたマスカーレイドに言葉をかけた。 妙に重苦しい雰囲気の室内にセンリは首を傾げつつ、マスカーレイドの対面に腰を落ち着けた。 少し俯き加減のマスカーレイドはそのままの体勢で、ぽつりと呟く。 「俺の希望の光・・・見つけたかも・・。」 マスカーレイドの台詞に、その場に居たセンリ達は一様に驚いた顔を見合わせた。 「それは本当!?ね、マスカーレイド、本当なの!?」 嬉しそうに声を上げる美咲はマスカーレイドの足元にしゃがみ込み、足を揺すった。 しかし俯いた顔からは喜びの色が一切なく、深い悲しみを湛えていた。 「マスカーレイド・・・、どうしたの?希望の光が見つかって、嬉しくないの?」 「美咲、少し落ち着いてください。マスカーレイドは見つけたかも・・と言ったのですよ?・・・それに、どうしたのですか、他に何かあるのではないですか・・・。」 センリに窘められた美咲は先走る思いを治め、マスカーレイドの足から手を離しセンリの隣に座った。 「・・・ん、実はさ・・・。」 マリカはソファに深く腰をかけ、中々話そうとしないマスカーレイドを急かせる様子もなく、皆は静かにその時を待った。 「実はさっき・・・、しつこい女を撒こうとして路地裏に入って行ったら、カップルが最中でさ。でも、よく見たら違うんだよね、どう見ても強姦でさ、・・・で俺は止めたんだ。女の子が服も身体もボロボロで、見ていられなくてさ。」 マスカーレイドがそこまで話すと、大きく息を吐き唇を噛み締めた。 そして皆が見守る中、またゆっくりと話し始めた。 「その娘・・・、ユリアって言うんだけど、ユリアがね涙を流しながら“助けて”って言うんだ。だから、俺はその男の邪魔をしたんだ。男を追い払ってユリアに近付いたら、初めて美咲がセンリに出逢った時と被ったんだ。」 マスカーレイドは美咲に視線を配り、僅かに笑みを見せる。 初めて出会った時を思い出し、何処か感慨深い気持ちでゆっくりと言葉を続けた。 「・・その、表情とか・・今まで見た事もない女の表情に変わったんだ。でもその後気を失ってさ、何も話を聞けず仕舞いで俺のフィールドで休ませているんだけど・・・。」 「見つけたかも・・と言うのは、そのユリアが希望の光だと言う確証がないからなのですね?」 「そう、・・でも、俺の中でも何か違うんだよ。ユリアを見ていると・・、今まで味わった事のない気持ちになる・・。なんて説明して良いかわからないんだけどさ、だからもしかしたら、俺の希望の光なんじゃ・・・って思ったんだ。」 重苦しい空気の中、マスカーレイドは小さく息を吐いた。 気持ちの沈んだマスカーレイドに声をかけれないでいる美咲はセンリの腕を強く掴んで、肩を落とすその姿を眺めるしか出来ないでいた。 「貴方の希望の光であれば、マスカーレイドが一番わかっても良いのですが・・、貴方がそうだと思えば、その人が希望の光なのですよ?この相性ばかりは当人同士でしか知りえない事ですからね。」 「そうなのはわかってるけど・・、俺自身困惑してるんだ。出逢い方が出逢い方だから・・。」 小さくなる声にマスカーレイドの顔は徐々に下がってゆく。 「ユリアさ・・、身体中ボロボロで・・・、至る所に誰かが犯したような痕がいくつもついてたんだ・・。俺、それ見たらやるせなくて・・・、どうしてこんなになるまで、ユリアを見つけてやれなかったんだろうって・・。俺の希望の光なら、俺がどうして・・・。」 膝に乗せた手を握り締め、硬く拳を作る。 僅かに震える拳からは血の気が引くほど強く握られ、マスカーレイドはそんな事を厭わず搾り出すように言葉を吐き出す。 心に抱えてしまった罪の意識は、黒い煙となってマスカーレイドの身体に蔓延する。 [*前へ][次へ#] [戻る] |