道化の国
動く歯車3
「・・・ともかく、俺のフィールドに行こっか。・・君、名前は・・?」
「ユリ・・ア・・・。」
「そう・・、ユリア・・・。俺はマスカーレイド、・・大丈夫、もう怖くないからね。すぐに休ませてあげるから、もう少しの辛抱だよ。」
マスカーレイドはもしかしたらと言う僅かな期待と心の奥底から沸き起こる高揚感を身体中に感じ、震える手を強く握り再度ユリアに近寄った。
「ふ・・ぁ・・・ッ。」
「大丈夫、俺はユリアを傷付けるような真似はしないよ。安心して、ね?」
マスカーレイドから伸ばされた手に何処か怯えたように身体を震わせ、ユリアは頬を赤らめながらも警戒心を丸出しにする。
少し哀しそうな顔をするマスカーレイドは仮面に隠されていて、瞳を閉じ萎縮するユリアにはそれは見えることがない。
強張らせた身体にソッと手を乗せ、マスカーレイドは緊張を解きほぐそうとユリアと同じ目線になるようしゃがみ込んだ。
「落ち着くまで此処でこうしていた方が良い?俺はユリアの望む通りにするよ。」
紅潮した顔で荒い息を吐くユリアは、優しい手つきで自分を撫でるマスカーレイドに胸の中が熱くなってゆく。
ゆっくりと瞼を開き視線を合わせれば、ユリア自身にも不可解な程の胸の高鳴りに戸惑っていた。
「助けて・・くれて・・、ありが・・と・・・。」
得体の知れない自分に今まで優しくしてくれた人など居らず、初めて受けた人の温かさも交じりユリアは安心したように瞳を閉じた。
「ユリア・・・?・・・意識ないか・・・。とりあえずフィールドに行って、・・それからセンリに・・。」
グッタリと力が抜けた身体を抱き上げ独り言を呟き、マスカーレイドは陰りのある瞳でユリアを見つめた。
「もしかしたら・・、ユリアは・・・・。」
マスカーレイドはユリアの姿をまじまじと見つめ、眉をしかめた。
よく見ればあちこち泥に塗れ、白い肌は踏み躙られた痕がいくつも残されている。
どんな境遇だったのか、マスカーレイドはユリアの今までの事を考えると胸が張り裂けそうになる。
「それが本当なら・・・こんな出逢い方・・、ユリアがあんまりだ・・・。」
滲む視界の中で、マスカーレイドは搾り出すような声でユリアを強く抱き締めた。
憂苦な思いがマスカーレイドの心を握りつぶさんばかりに、重くのしかかる。
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