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道化の国
揺り籠


此処に来てからどれくらい経ったのだろう。
センリが言った“時間の流れがゆっくり”の台詞の意味が、ここに来てから漸く理解出来つつあった。

時の経つ感覚がわからない。


「センリ」

「どうしました?」


美咲に微笑みかけるセンリは小気味良い音をたて紅茶を入れている。
美咲は勧められたティーカップを無言で受け取り、芳香を楽しんでから一口味わった。


「私がこの世界に来てから、どれくらいたったのかな?」

「おや、もう時の感覚がわからなくなりましたか?」

「どう言う意味?」


馬鹿にされたと思った美咲は頬を膨らませ、眉間に皺を寄せている。


「馬鹿にしてるわけではないのですから」


皺が本当に付きますよ、と、美咲の額を撫でる。


「この世界に少し慣れてきたのですね、って思ったんですよ。最初は時間の感覚はあるのですが、徐々になくなり、もっと慣れるとまた時間の感覚がでてくるのです。だから、もう少し慣れれば感覚は取り戻せます」

「そうなんだ…」

「貴女は何も心配することはないのですよ、美咲には私がいます。何も怖いものなどありません」


ほくそ笑むセンリは隣に座っていた美咲を、自分の膝の上に軽々と乗せた。


「やっ、センリ!危ないじゃない、お茶を零しちゃうよ」

「大丈夫です、少しこうさせてください」


後ろから抱きすくめる形になり、腰にまわした腕に優しく力をいれる。
美咲の首筋にセンリの唇が当たり、思わず声が出そうになるのを堪えた。


「…美咲、力が入っています。別に我慢しなくても良いのですよ?」


小さく笑ったセンリは、美咲の柔らかな髪に唇を落とす。


「美咲は良い香りがします、心休まる香りが…」

「そ…そうかな?」

「はい、私の居場所なのだと再確認できます。とても落ち着きます」


センリは自分の気持ちを包み隠す事なく、美咲を赤面させるような台詞をいつもチラつかせる。


そんな言葉にがんじがらめにされ、腕にもがんじがらめ。

逃げようとしない蝶は、甘い蜜と柔らかな揺り籠に囚われて。







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あきゅろす。
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