道化の国
気持ち3
息もつかせぬような深いキスに花月の涙は引っ込んでしまい、その表情は蕩けたようになっていた。
白露は唇を離すと、その花月の顔に見入ってしまう。
「そんな顔をするな。」
「・・・そんな顔って・・。」
「食べたくなる顔だ。」
「そんな顔などしていない!」
「わかった、わかったから・・、あまり暴れるな。」
ばたつかせる手を押さえ、白露は苦笑する。
冷静でいる白露を悔しく思うが、大きく息を吸い込んだ花月は落ち着きを取り戻す。
大人しくなったのを見計らい、白露は花月をソファへと促し座らせた。
「なぁ白露・・・、センリが言っていたのだが、男は女より純情なのか?」
ふと疑問を口にする花月は、隣りにいる白露に視線を向ける。
眉をひそめる白露は軽く咳払いをし、交わっていた視線を前に戻した。
「俺にはよくわからない事だが、センリが言うならそうなんじゃないか?」
「・・・白露もよくわからないのか。」
疑問が今一つ晴れない花月ではあるが、さして気にしない様子で前を向いた。
「今から言う事は、・・そうそう言わないからよく聞け。」
何処か決意染みた重い口調の白露は花月の前で膝を折り、不思議そうな表情の花月を見上げた。
「花月・・・、俺はお前を一生大事にする。だから・・・、ずっと守らせてもらえるか?」
「白露・・。」
「返事を聞かせてくれ。」
白露は手を取り、顔を紅潮させる花月を見つめる。
暫しの静寂の後、白露を見下ろす大きな黒い瞳が揺れ、雫が零れ落ちた。
「ずっと・・・側にいてくれ、わたくしを離すんじゃないぞ・・・。」
溢れる雫を白露の指先が受け止め、安らかな笑みを花月に向けた。
「任せろ。」
白露の袂を掴む花月の手は微かに震える。
白露のその言葉と笑顔で、今まで胸に止めていた想いが堰を切ったように流れ出した。
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