道化の国
気持ち1
花月の案内で部屋に入ると、白露が無言で後から続く。
扉を閉まる音が耳を掠めると、花月はゆっくりと振り返った。
「話とは・・・なんだ・・?」
「・・・あぁ・・、その・・。」
突っ立ったままの白露は言葉を詰まらせ、深く深呼吸をした。
そのまま足をソファに進め浅く腰を下ろすと、花月にも隣に座るよう促す。
緊張が高まる花月はおずおずとしながらも、白露から少し離れて腰をかけた。
静かな部屋で、逸る鼓動を抑える花月は視線を膝に落とす。
「・・・花月・・、色々不安だったか?」
ゆっくりと話す白露に、花月は頷き頭を垂れる。
「倭の国を出てくる前に、お前は俺に隠し事があるんじゃないかって言ってたよな。」
「う・・・ん・・。」
「・・隠し事と言うか・・、俺はとても貪欲だったらしくてな。自分でも驚いているんだ。」
「・・貪欲?」
花月は顔を上げ白露を見上げると、何処か自嘲めいた笑みの白露が見つめている。
吐息混じりに左手を花月の腰に回し、側に引き寄せる。
白露の突然の行動に思わず身構えそうになるが、硬直したままそれに流されるように身を任せた。
「俺は・・、花月とこの様な関係になれるとは思わなかった。だから、俺はとても嬉しいんだ。こうやって花月と気持ちを通わせる事が出来たと言う今が、とても嬉しいんだ。」
「白露・・。」
「しかし、一つ手に入るとまた次が欲しくなる。もっとお前が欲しくなる・・。・・・俺の言いたい意味がわかるか?」
「・・・・わからない。」
白露は視線を逸らし大きく息を吐き出した。
そして回していた腕に力を入れ、両腕の中にスッポリと収めた。
「俺は花月が欲しくて欲しくて堪らない。」
白露の声が耳元で囁かれると、花月の体温が急激に上がった。
昔から知っているような声ではない、男と意識せざる得ない低く掠れたような、それでいて熱の込められた声を聞いて。
身を強張らせ恥かしさに耐えていると、自分を包んでいた腕の力が緩まった。
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