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道化の国
宝石


フィールド外に出た二人は、静かな街を当てもなく歩いていた。


「花月は何処か行きたい所ってある?」

「・・・特にないな・・・。」

「じゃあさ、宝石屋さんがあるんだけど、見に行かない?」

「美咲に任せる。・・そもそも、宝石屋など初めてだ。」


宝石屋を初めてだと言った花月に、綺麗な宝石たちを目の前に喜ぶ様を思い浮かべ、美咲は楽しそうに歩き始めた。


着いた場所はいつも美咲が利用している宝石屋。
たくさんのルースが置かれ、ランプの灯りがそれ等を淡い光で包み込んでいた。


「綺麗だな・・・。」

「でしょ?センリとよく来るんだ、見てるとうっとりしちゃうんだよね。」


それから花月は無言のまま、たくさんのルースが置かれている棚に足を進める。
ゆっくりと見回し、一つ手に取っては置き、また一つ手に取っては置いてを繰り返している。

そして、掌に乗せた一つのルースを眺め小さく笑みを見せた。


「どうしたの?それ、気に入ったの?」

「・・・なんだか、白露に似てる・・・。」

「それはねムーンストーンって言うの。神秘的だよね、この石。」

「淡い色が月の光に似て、まるで白露のようだ。捉えどころがなく、ただ闇夜を静かに照らす月・・・。」


囁くように吐き出された言葉に、花月の表情は孤愁に満ちていた。


「センリは宝石に詳しいから、色々と語ってくれるんだけど・・・。あのね、宝石にも色々意味があるんだってセンリが言ってたよ、花月は自分の気に入った宝石ってある?」


美咲は花月の視線をムーンストーンから逸らせようと話題を振り、手を引いて他のルースが置かれている棚の前に連れ出した。


「わたくしの気に入った宝石・・・・。」


花月はムーンストーンを左手に収めたまま辺りを眺め始めると、一点を見つめてその動きは止まった。


「これが好きだな・・、落ち着いた感じや色も・・・良い。」


手を伸ばした先には、薄く桃色がかった光沢のある真珠。
指先で一粒持ち、真珠を見つめる花月は柔らかな微笑を見せた。


「それは真珠。花月にぴったりだね、可愛いよ。」

「真珠・・・。」

「お店の人に言って、これを包んでもらおっか。あと・・このムーンストーン、白露のお土産にしよう?」


白露を想っているのか、花月は何処か女らしさを秘めた穏やかな笑顔で頷いた。



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