道化の国
欲深き者
「笑ってる場合じゃないわよセンリ、今から白露のいる宿に突撃するのよ!」
「今からですか?」
「そうよ!こんな所で話をしてても埒が明かないわ。当人に話をつけるのが一番簡単な事じゃない!」
「それは・・・そうかもしれませんが・・。」
歯切れの悪いセンリをマリカが無理矢理立たせると、嬉々とした様子でBARを飛び出した。
マリカはセンリの案内の元、白露のいる宿へ向かうと真っ直ぐに借りている部屋に足を進めた。
「白露!」
「・・・・マリカ?」
ベッドに横たわっていた白露は寝ていたのか、気だるそうに起き上がり濃藍色の長い髪を掻き上げた。
マリカはその優雅な振る舞いに何処か余裕を感じてしまい、苛立つ気持ちをぶつけた。
「マリカ?・・じゃないわよ!あんたも男なら決めるとき決めないと、女は逃げていくわよ!?」
マリカは寝起きの白露の襟首を掴み揺さぶりをかけ、眉を吊り上げて怒りを露にする。
「・・・・センリが話したのか?」
「はい、悪かったでしょうか。」
「いや・・。マリカにも迷惑をかけて、・・すまない。」
消沈したようすの白露にマリカは驚き、きつく締め上げていた襟首から力を抜いた。
「ちょっと・・・、本気なの?何なの、花月は大事すぎて手が出せないって事なのかしら?」
「・・・・。」
マリカは白露から完全に手を離しベッドに腰を下ろすと、白露は静かに口を開いた。
「花月はまっさらなんだ・・・、俺の色に染まらないくらいまっさら・・・。それを汚そうとしている自分にも、気が引けてしまう・・。」
そして倭の国を出てくる前に起こった出来事を話し始めた白露を横目に、センリはソファに腰を深く下ろした。
センリとマリカはその時の情景がありありと浮かび上がり、白露の話に耳を傾けていた。
「・・・自分でも恐ろしいくらい臆病になっているのがわかる、それがとてももどかしい・・。」
短い心の内を話し終え、白露は自嘲めいた笑みを漏らし息を吐いた。
「なまじ心が通じ合えたと思えば、・・・人間は欲深いものでな。心が手に入ると、今度は身体が欲しくなる。」
「無欲な人間はいませんよ、それが普通です。」
「そうか?」
慰めるような言い方のセンリに、白露は少しだけ心が救われるような気がした。
無理に作られた笑顔は自分でも痛々しく思うが、それでも僅かな心のわだかまりが消えるようだった。
「花月は白露の色に染めてもらうのを待っているとしたら、・・・貴方はそれでも行動に移せませんか?」
「それなら話は別だ、望まれているなら喜んで染めてやる。しかし・・・、あの世俗に疎い花月はそんな事を望む日がくるのだろうか・・・。」
「わかりました、では私は一旦フィールドに戻ります。マリカ、白露の愚痴でも聞いてあげてくださいね。」
センリは何か思い立ったように立ち上がると、マリカに白露を託し不満を叫ぶ声を背に受け、センリは足早にフィールドに戻っていった。
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