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道化の国
美咲効果


センリがリビングに入ると、手紙が届いたばかりなのか白く光る輝きが机の上に零れている。


「・・白露・・・ですか。」


封筒を手にし、センリはソファに腰を下ろして手紙を読んだ。
そこには何の飾り気もない文字で、白露の居場所を告げるものだった。


「白露をもう少し、たきつけてみましょうか・・。」


手紙をポケットにしまい、センリは机に向かった。
引き出しから便箋を一枚取り出し、丁寧に字を連ねた。

自分がいなくて勝手な行動を取らぬよう心配な部分が多量にある気持ちを手紙に記したい所だが、押し付けるような愛情を向けたくないセンリはそれを堪え、その一文に慈しみや憂慮をしたためた。


「美咲一人なら無茶もしないでしょうが・・・、花月がいますから心配ですね・・。」


眉間にしわを寄せ、センリは思い立ったように追記するとペンを置いた。

センリは違う意味で一番心配の材料となる花月が美咲と合わさると、その心配が二乗にも三乗にも感じられる。

いつも突拍子もない行動を起こす花月は、今なら眠っている。
チャンスとばかりに、美咲に後ろ髪引かれつつもフィールドを後にした。


静かな街並みに出れば誰も居らず、色々と策を練るためにBARに足を進めた。
協力者やタイミングをどの様にしようかと、センリは考えをめぐらせながら行きつけにしていたBARの扉を開いた。

とりあえずマリカに何か良案を出してもらおうと呼び出し、到着を待っているとほどなくしてマリカが現れた。


「どうしたのかしら?」

「今・・、白露がこちらに滞在しています。そして、花月は私のフィールドにいます・・。」

「あら、何がどうしてそんな事になっているのかしら。」


面白そうだといわんばかりに、マリカの顔はみるみるうちに輝き始める。
興奮気味な面持ちで椅子に腰をかけ、ドライ・ジンを注文した。


「二人の気持ちのすれ違いと、白露の禁欲が限界・・と言ったところでしょうか。」

「あらぁ、それは随分楽しそうな話ね。」


二人から手紙が来た事、それから二人から聞いた話の内容を簡単に話した。
マリカは白露達の話をつまみに、バーテンダーに差し出されたジンを口元に運んだ。


「どうしたら良いでしょうか。もう一切揉め事や、心配事が起こらないように二人の結びつきを強固な物にしたいのですが。」

「無理よ、男と女の関係に、心配事や揉め事なんてついてくる物よ。センリだってそうなんじゃないかしら?いつまでも美咲を心配してばかりで、べったりくっついているじゃない。」

「それは私が勝手に心配しているだけで・・・、話が逸れてますね・・。私達の事はどうでも良いのです。今は白露達の事をどうしたら良いのかを考えてください。」

「そんなの簡単よ。」


マリカはジンのコクの深い味わいを楽しむと、グラスを置きサラリとした返事を返してきた。


「どうやるのですか?」

「お互いが腹を割らないでいるから、誤解が生じるのよ。だから、二人はもっと話をするべきよ。今まで何も言わないでも通じていたから、無駄に話をしないのね・・。でも、今と昔では関係が変わったのよ、あの二人は一からのスタートなのにねぇ・・・。それに気付かない白露も、情けない男ね。」

「・・・話していただければ良いのですが・・、なにぶんあの二人ですから・・。そう説明した所で、素直に話をしてくれるでしょうか・・。」

「上手く行くかは保障出来ないけど、進展する事は間違いないわ。」


マリカは鼻で笑いグラスを空けると、二杯目を促すため前に差し出した。


「それに白露も自分に素直にならないから、悶々としちゃうのね。一回でもヤッちゃえば簡単に手を出せるのに・・、何をモタモタしているのかしら。」

「あの白露ですからね、固い性格が災いしているのだと思います。」

「それでもよ!?男が女を不安にさせるなんて間違っているわ、そんな事をしているなら付き合わない方が良いわよ。いつまでもこの調子で続けていたら、白露のヘタレが際立ってくるわ。」


やけにマリカが熱を入れて話すの見てセンリは思った。
白露が自分に相談するよりも、マリカに相談した方が早いのでは・・と。

なぜ回りの人間は自分に寄って来ては、問題を積み重ねて行くのか・・。
これも美咲効果なのではないかと、薄く笑みを漏らした。



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