道化の国
協力1
突然センリの前に輝く水滴が落ち、淡い飛沫をあげて弾けた。
「・・白露からの呼び出しです・・。美咲、私は少し出てきます、待っていてもらえますか?」
「うん、いってらっしゃい。」
素直に頷く美咲の頭を撫で、頬に唇を寄せたセンリは行ってきますと囁き、フィールドを後にした。
呼び出された場所近くに出ると、白露が疲れきった表情で立ち尽くしていた。
「急にどうしたのですか?」
「センリすまない・・、少し話を聞いてもらいたくてな・・。」
「花月に触れてないのでしょう?随分思いつめた顔をしていますよ。」
「・・・わかったような口を聞くな・・・、まぁ・・そうなんだが・・。」
全て見ていたかのような口ぶりのセンリに悔しさを覚える白露は、痛む頭を抱え大きく息を吐いた。
「さっさと押し倒せば良いものを、まだ主従関係を引きずっているのですか?」
「押し倒すなんて俺には出来る芸当ではない。それに主従関係も何も、はなっから有って無い様なものだ、だからそれは無関係だ。」
「そんな堅い事を言っているから限界なんて来るのですよ。そんな溜め込んでいたら、いつか爆発して花月を滅茶苦茶にしてしまいそうですね。」
「それが恐ろしくてな・・。」
白露は台詞を続ける事が出来ず、眉をしかめたまま目を伏せた。
「・・で、逃げて来たのですか。」
「逃げて来たとは言いたくないが・・。自制が効かなくなっているのが自分でもわかる・・、現に花月は俺に対して妙な警戒心を出してきた。」
「そうですか・・、・・では白露はどうしたいのですか?」
「・・言わなくてもわかるだろう、俺だって男だ、我慢の限界に近付いてきている。」
額に手を当てうな垂れる白露は本当の気持ちを漏らし、息を吐き出した。
「おや、いつぞやは待つのは苦じゃないと言っていませんでしたか?」
「昔の話を蒸し返すな、俺は真剣にだな・・。」
眉をしかませ辛そうな表情の白露にセンリは笑みを漏らし、小さく頷いた。
「わかりました、私達が協力して差し上げます。」
「恩に着る・・・が、私達とは・・?」
「ちょうど花月からも手紙が届いたのですよ、美咲宛に。美咲なら喜んで骨を折ってくれますよ。巻き込まれるのがわかっていれば、突然何かが起こるよりも賢いでしょう?ですから、今回ばかりは協力を惜しみません。」
「助かる・・・、・・花月の手紙にはなんて書いていたんだ?」
少しだけ安堵の息を漏らす白露は気持ちに余裕が出てきたのか、花月の手紙が気になり始めた。
「それはプライバシーがありますから秘密です、白露には教えられません。」
「・・・まぁ良い・・。はぁ・・・、花月とこの様な関係になってから、妙にギクシャクしててな・・・、本当にまいっている。こんな事になるならば、気持ちなど通じ合えなかった方が良かったのかもしれない・・・、お互いに。」
センリに一蹴されるのを見越していた白露は、先ほどとは違う色の息を弱音と共に吐いた。
「そんな後ろ向きな事を美咲の前で言ったら、怒られますよ?」
「現実問題としては、美咲に怒られた方がよほど楽かもしれない・・。」
焦燥しきった白露にセンリはどこかおかしく思え、思わず笑みが零れる。
「他人事だと思って・・・。」
「気にしないでください、ただ・・、白露にこんな時が来たのかと思えば、笑ってしまうのも無理はないと思いますが。」
「どういう意味だ?」
「ですから、花月の教育係として一生を過ごすのかと思っていたのに、こんな悩みが出来るとは思いもしませんでしたから。」
「・・・そうだな、前の俺にはこんな悩みを抱えるとは思っていなかったな。・・・少し贅沢な悩みかもなしれない。」
恋煩いをする白露が何処か可愛らしく見えたセンリは笑みを絶やすことなく、髪を掻き上げる白露を見ていた。
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