道化の国
幸福感
「なんだか・・、悪い事しちゃった。」
「美咲が気に病むことはありませんよ、彼は自業自得です。遊びすぎなマスカーレイドには、良い薬です。」
「そうかなぁ?」
「そうですよ。」
キッパリと言い切るセンリは美咲の身体に手を伸ばし、その腕に促されるように美咲はセンリの胸に身体を預けた。
「それに・・・これから・・、もう少し面白いものが見れるかと・・。」
ほくそ笑むセンリの表情は美咲からは窺い知る事は出来ず、センリの言う“面白いもの”とは何なのかと、疲れた頭で考えていた。
「・・美咲、疲れたでしょうからこのまま眠っても良いですよ。折角の眠りを邪魔されたんです・・・。それとも・・、もう一回交えますか?」
「えっ!?え・・、あの・・、もうそんな体力は・・。」
「冗談です、美咲に無理はさせられません。今はゆっくり眠ってください、私がこうやって抱き締めていてあげますから・・。」
静かな室内にはセンリの低く艶のあるテノールと、二人の小さな息遣い。
美咲の耳から伝わるのは、センリの温かな鼓動。
自然と落ちた瞼は、やがて美咲の思考までゆっくりと奪い去っていった。
ただ、肌に感じるのは愛しい人の柔らかな温もり。
安心の出来るセンリの香りに包まれ、美咲は寝息を立てて眠りの世界へと旅立った。
「おやすみなさい・・美咲、良い夢を・・・。」
センリは腕の中で眠る美咲の額に唇を落とし、顔にかかる髪を掻き上げた。
ほのかに鼻腔をくすぐる美咲の香りは、センリも夢見心地に誘いをかける。
安心しきって眠る美咲にこの上ない幸福感を覚えるセンリは、その温かな身体を優しく抱き締めた。
「私も少し眠りましょうか・・・。」
センリは美咲を抱き上げ、ベッドルームへと消えていった。
そして次に目覚めるまで、センリ達の眠りを邪魔する者は誰一人としてこなかった。
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