それから何回かセンリと共に美咲はフィールドから出て散歩に行くが、ユーマは一回も現れなかった。
拍子抜けした二人は次第にその存在を忘れ、油断をしてしまっていた。
いつものように手を繋ぎ合わせ国を見て回っていると、目の前の空間が切り裂かれ漆黒の闇が目の前に広がった。
「なっ、何……?」
「美咲、下がっていてください」
センリは美咲を自分の後ろに隠し、様子を窺う。
空間の裂け目から人影が揺れ、地に足が降り立った。
「久しぶりだな、センリ」
「……ユーマ」
「この人がユーマ……?」
美咲は接触はしたものの、後ろから腕をつかまれただけで顔を確認することが出来なかった。ユーマとは、ある意味初めての対面だった。
緩く波打つ金色の髪と深みのある瞳、少年とも青年とも取れる男が面前に立っていた。
「何か用ですか」
「ちょっとな、そこの女に用がある」
「美咲は貴方に用事がありませんので、引き取らせていただきます」
表情を変えず淡々と答えるセンリに苛立ちを覚えたユーマは、怒りを露にする。
「センリの、そのポーカーフェイスが気にいらねぇんだよ!その女を壊せば、その顔を歪ませることが出来るんだろう?だからよこせよ、俺が滅茶苦茶に壊してやる!」
「相変わらず子供じみた事を考えていますね。私の大事な人を、簡単に渡すわけないでしょう?貴方だって知ってるはずです」
「そーゆー上から目線が一番ムカつくんだよっ!!一々癇に障る」
センリの表情は穏やかで、ユーマに向けられる言葉は何処か諭すような柔らかい口調。しかしそんなセンリの態度が気に入らず、声音が大きくなる。
ユーマの罵声に小さく悲鳴を上げた美咲は、ドキドキしながらセンリの影に隠れ見て様子を窺うしか出来なかった。
そんな美咲を気遣いながらセンリは大丈夫と美咲の耳元で囁く。
「余所見してんじゃねー!!」
ユーマが叫ぶと同時に二本のナイフが投げつけられる。
センリは美咲を守りながら身を引き、向かってきたナイフを簡単にかわした。
「いい加減おいたが過ぎますね、こちらからも行きますよ」
センリは懐から長い細身の鞭を取り出し、地を叩きつけた。
「美咲、その建物の影に隠れていてください。ユーマにはちょっと躾が必要ですので……マリカを呼んでおきますから、それまで一人で良い子にしていてくださいね」
「う、うん。センリ気をつけて……」
不安ながらもセンリの身を案じ、言われた通り影に隠れ、いつ来るかわからないマリカを待つ事にした。
センリの瞳に揺らぐ冷たい光に少しばかり怯えながら。