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道化の国
慰め


マリカとの話を上の空で聞いていた美咲は、これ以上二人を見ていたくなく、店の外に一人で出て行った。

店から少し離れた場所にある積み上げられたレンガの上に腰をかけ、辛そうに肩を落とした。

理由があるにしろ、いつも感じていたセンリの温もりが側にいないと思えば、何もかもが空虚に感じられていまい。
ただ、美咲の頭の中には寄り添う二人がいつまでもこびりついて、離れてはくれようとしなかった。


落とした視線に黒い革靴が目に入り、美咲が顔を上げるとマスカーレイドが手を振りニコリと微笑んでいた。


「一人で表に出ちゃ駄目だよ。」

「マスカーレイド・・・、どうして駄目なの?」

「センリが心配するよ、良いの?」


マスカーレイドの言葉に美咲はため息をつき、小さな声で話し始めた。


「・・センリはもしかしたら・・・、私の事忘れているかもしれない・・。」

「どうして?」

「だって、アルマにばかり気を取られていて、私が表に出た事に気付いていないんじゃないかな・・。今だって、追いかけても来ないみたいだし・・。」

「そんな事ないと思うよ、少し考えすぎだよ美咲。」


マスカーレイドは肩を竦め、美咲の座るレンガの隣に腰を下ろした。


「・・・アルマも一緒に行くってなると思わなくて・・いつもの通りであれば断るだろうって思ったんだど、断らなかった・・。どうしてかな・・・、センリは何も言わなかったし・・・。」

「美咲を悲しませて、悪い奴だなセンリは。でもセンリは何か理由があって、アルマを連れてきたんじゃないかな。」

「うん、そうだよね・・、センリは何か考えているんだと思う。・・けど、それをわかってはいるんだけど、やっぱり悔しいって言うか・・、センリの側に女の人がいるって思うだけでモヤモヤしてきちゃって・・。笑っちゃうよね、センリを信用してないみたいで。マリカにも信じてって言われたばかりなのにね・・・。」


自分でも嫌悪を抱くような言葉を心から追い出したく、美咲はマスカーレイドに愚痴を漏らしてしまう。
言ってて悲しくなってきた美咲は、思わず大粒の涙を零してしまった。


「我慢しなくて良いんだよ。」

「え・・。」


マスカーレイドの言葉に、不意に抱かれた肩に驚き、隣に座るマスカーレイドを見上げた。


「嫌なら嫌だってハッキリ言っても良いんだよ?センリは美咲にヤキモチ妬かれるの、喜ぶと思うけどな。」

「でも・・・、みっともなくて恥かしい・・、センリの考えを理解できるような大人になりたいのに・・。」

「みっともなくても良いよ、男と女の関係なんてスマートにこなせる方が難しいんだし。恋愛は器用じゃなくて良い、不器用だからこそ楽しめるんだ。なんでもそつなくしていたら、恋愛なんてつまらないものなんだよ?」


見上げる美咲の瞳からは、止め処なく静かに涙が零れ落ちる。
マスカーレイドはその涙をソッと掬い上げ、仮面の下の瞳が細められた。


「良いかい美咲、男は弱ってる女に付け込むのが上手いんだ・・、こんな場所で一人で泣いていたら知らない奴にさらわれちゃうよ?勿論、俺も例外じゃない。」

「マスカーレイド・・・?」


肩を抱いていたマスカーレイドは、美咲の顔を自分の胸に押し当てた。


「泣くのはセンリの前だけにしたらいいよ。そんな無防備な顔されたら、どうしたら良いのかわからなくなる。」


センリとは違う、胸の広さや香り、そして抱きしめる力強さ。
美咲はマスカーレイドの温もりから、きつく締め上げていた心を解放してしまい、声を出して泣いてしまった。


「あー・・、美咲泣かないで、早くセンリの所に行こう?」


マスカーレイドは身体を離し美咲の顔を窺うが、美咲はかぶりを振りセンリのもとに行くのを拒んだ。


「困ったな〜、じゃあセンリを呼ぶから此処で待ってて。すぐに戻るから、此処から動いちゃ駄目だよ?」


押し黙ったままの美咲を見て、仕方ないとばかりにマスカーレイドは店の中へと戻って行った。


マスカーレイドが店に向かうのを見た美咲はセンリと顔を合わせ辛く、どんな顔でいればいいのか考えながら流れる涙を手で拭っていた。


「また会ったね、美咲。」


美咲は後ろから声を掛けられ、振り向くとルイがニッコリと微笑んで立っていた。


「ルイ・・?」

「覚えていてくれたんだ、嬉しいな。此処で会ったのも運命かもね、これから一緒に遊ぼうか。」

「え・・でも・・。」


ルイは美咲の手を強く引っ張り立たせると、空いた手で空間を切り裂いた。


「俺のフィールドに行こうよ。」

「や、ちょっと、駄目だよ・・離して!」


ルイに腕を掴まれた美咲は抵抗むなしく、引きずられるように漆黒の闇に溶けてしまった。




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