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道化の国
茶色い巻き髪3


美咲とマリカが何やら話しこんでいるのを遠目で見ていたセンリは、大きく息を吐いた。
どう宥めてもすかしても、脅しても離れないアルマに、センリはうんざりしていた。

それこそ、自分がこのような状況を美咲の目に触れさせたくないセンリは、美咲に近づく事すら出来ずにいた。
近くにいながらも近づけないもどかしさで、悲しみに似た焦燥感に苛まれていた。


「センリ、少しは私の相手をしてくれても良いんじゃなくて?」

「これ以上私を苛々させないでください。良いですか、私にだって我慢の限界があります。いくら美咲の事を盾にしていても・・・。」

「私はセンリを一目見て気に入ったわ、欲しいものをどんな手を使ってでも手に入れるのが私の流儀。苛々しているのは、多少なりに私に関心があるからでしょう?・・ふふっ、嬉しい。」


幼さいはずの表情が一気に大人の色香を纏い、アルマの笑みは妖艶なものへと変化した。


「・・ともかく、最初と話が違います。私は、私の側から離れるなら来ても良いと言いました。貴女は忘れたのですか?」

「好きな人と一緒に居たいと思うのは、当たり前の事じゃなくて?」


何を言っても自分の持論を通そうとするアルマに、センリは閉口してしまう。
苛々も通り過ぎ、今度は多種多様な疲れがセンリの身体を支配する。


「もう勝手にしてください、私も勝手にします。」


センリはアルマの腕を振り解き、美咲を探しに店の中を探して歩いた。


「マリカ、美咲を見ませんでしたか?」

「それよりも、あの娘は何?」


センリは先ほどまで自分に張り付いていたアルマを指差すマリカに、顔を曇らせた。


「私にも何が何だかわからないのです、どうにかしてもらえませんか?」

「センリなら自分で出来るでしょう?」

「・・・美咲を盾にされては、思いきった行動も出来ません・・。」


息を吐くセンリに、マリカは訝しげな顔をした。


「美咲を盾って、どう言う事?」

「アルマに手を上げたら、私に暴力を振るわれたと美咲にバラすと言っていました。」

「あら、美咲がセンリの弱点だって事、わかっているのね・・・。どう言うつもりでセンリに張り付いているのかしら。」

「一目見て気に入ったと言っていました、・・・正直どうして良いのかわかりません。美咲には触れられないし、苛々しっぱなしで頭がおかしくなりそうです。」


頭を痛そうに押さえ、センリは横目で頭痛の種のアルマを一瞥した。

他の騎士達が気を利かせセンリに近寄らせぬよう、アルマの足を引きとめようと色々と話しかけていた。
美形揃いの騎士達に囲まれ、満更でもなさそうに笑うアルマをセンリは憎らしく思う。


振り回され、美咲からは離され、センリは眉間にシワを寄せたままマリカを睨んだ。


「ともかく、美咲は何処に行ったかわかりませんか?」

「美咲なら表に出て行ったわ、でも安心して。一人じゃないわ、マスカーレイドを行かせたわ。」


グラスを傾け、琥珀色を口に含んだマリカは熱い息を吐いた。


「それはそれで心配のような気がします・・。」


尚も表情が緩む事のないセンリは、足早に扉に向かって歩いて行った。







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