道化の国
そこが居場所
抱き合ったまま眠りに落ちたセンリは、美咲がいない事に気付いて目が覚めた。
「美咲……?」
いつもであれば美咲が先に起きたところでセンリは気配で目覚めるのだが、今回は美咲が起きた事すら気付かないでいた。
美咲は何処に行ったのだろうかと気怠い身体を起こすと、ゆっくりと扉が開いた。
「センリ起きた?」
「えぇ、今……」
すぐさま駆け寄り、美咲はセンリにキスをする。
いつもと違う積極的な態度の美咲に、センリは目を丸くした。
「どうしたのですか?」
センリは苦笑いで美咲を自分の膝の上に抱き上げ、額を寄せた。
「たまには、自分からの愛情表現もしなくちゃって……、思って……」
話ながら美咲は自ら起こした行動が段々恥かしくなり、思わず視線を逸らした。
「だってね、いつもセンリからばかりで……、思えば私からって何もしてなかったような気がして……。与えてもらうばかりで、甘やかされて……」
言葉尻が小さくなりモゴモゴしていると、センリは優しい笑みで美咲に唇を重ねた。
「その気持ちだけで十分です。慣れない事をして、私の瞳を見れなくなってては少し寂しいですよ」
「う……ん、ごめんね。何だか慣れなくて、……やっぱり恥かしい」
紅くなる顔を抑え、美咲は上目遣いでセンリを盗み見る。
「それに良いのですよ?甘えてくれれば、私も嬉しいです」
センリの言葉に一瞬微笑んだかと思うと、美咲の顔色が暗くなった。
「私……、あの、ユリエルって人に言われた。弱い者は、この国では必要ないって……。私、強くなりたい……。センリ、私どうしたら良いの?どうしたら、この国から追い出されなくて済むの?」
美咲の肩に触れていた手に、一瞬緊張が走る。
ユリエルが美咲に何かを吹き込んだであろうとは思っていたが、美咲の表情を見ればおおよその検討はついた。
それも美咲が覚えていて、気にしている事が手に取るようにわかった。
押し黙るセンリに切なそうに顔を曇らせる美咲は、しょんぼりと肩を落としてしまう。
眉を吊り上げるセンリは身体に力が入るが、そんな美咲を見て落ち着きを払うように大きく息を吐き出した。
「ユリエルの事は気にしないでください、貴女はそのままで良いのです。誰がなんと言おうと、今の美咲で私は十分幸せです。それに私に必要とされているのに、それだけでは美咲は不満足なのですか?」
「それは……」
「それに、この国にいる必要と言うより、私の側にいる必要があります。それだけでは、駄目ですか?」
優しく諭すセンリは美咲の頭を撫でると、俯き小さくかぶりを振る。
零れ落ちそうな涙を手で拭うと顔を上げ、センリに笑顔を見せた。
「ううん、センリの側にいる必要の方が良い。……どんな所にいても、私はセンリと一緒なら……そこが私の居場所だよね」
ジェード・バインの呪縛から解き放たれて正気に戻るにつれ、ユリエルから自分の存在を否定された事で、どこか落ち着きをなくしていた。
泣くまいと必死に堪える美咲はセンリの言葉が嬉しく、沁みこむように美咲の心に溶け込んでいった。
センリがそう言ってくれた事により、美咲の心は少し救われた。
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