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道化の国
終息


ユリエルは身体を動かすのさえ疎ましそうにし、早くしろとセンリに目で合図した。


「ユーマ、マスカーレイド、その辺で止めてください」


センリの声にユーマはピタリと動きを止め、不満げな顔を向けた。


「もう終りかよ」

「ユリエルが、部下を見殺しにしたくないそうですから」


ユーマは渋々ナイフに付着する血糊を払い、腰に戻す。
それを見て、センリはユリエルに身体を向け大きく息をついた。


「これは一つ貸しですよ」

「……わかった」


どこか疲れた表情のユリエルは、瞳を伏せ小さく呟いた。


「助かった〜。……ったく、喧嘩は苦手なんだって」


マスカーレイドはぼやきながら血が付着した落ちているカードを拾い上げると、それを嫌そうにしながら天に翳し眺めた。
そんなマスカーレイドを一瞥し、ユーマは足元を揺らめかせるガーディアン達を見て口の端を吊り上げた。


「好き勝手やっちまったな」


漸く止んだ攻撃の嵐はガーディアン達の意識を奪い、次々に力尽きて尻をついた。


「別に平気でしょ。秩序があって、ないような国だもの。それに、あっちから仕掛けてきたんだし、正当防衛になるよ」

「……このことに関しては、別にお前達を責めるつもりはない。だから、これで貸し借りはなしだ」


小さく呟くユリエルはそう言い捨てるが、語尾だけは強く言いセンリに視線を合わせた。


「……まぁ良いでしょう。もし、また美咲を狙うような事があったら……、その時は容赦しません。例え、レフトナント・ジェネラルが相手でも」


跳ね返すような鋭い視線をユリエルに向け、センリは念を押す。
ユリエルはセンリを見ずとも突き刺さるような痛い視線を感じ、ゆっくりと頷いた。


「本来ならば貴方の命を取りたいくらいの気持ちはありますが、立場のある人物を手にかけたとあれば、私以上に美咲に危害が及びそうなので今回は目を瞑ります」

「なぜあのような弱い輩を、守る必要があるのか……俺にはわからない」


ユリエルは座り込んだまま頭を垂れ、力なくかぶりを振った。


「貴方も希望の光を見つけてみては?……そんな事を思っていた自分が、信じられなくなりますよ」

「そんなものなのか……。……もう手は出さない、配下に煽るような事もしない、……悪かったな」

「わかっていただければ良いのです。マスカーレイド、ユーマ、後は任せます」


センリはそう言い残すと、うな垂れるユリエルを一瞥したのち踵を返しその場を後にした。


「後は任せますって言われても……、どうすりゃ良いのさ」


マスカーレイドが辺りを見渡す散々たる現状は、苦しそうに呻くガーディアンと、漸く息の落ち着き始めたユリエル。


「お前等の世話になるつもりはない……、此処は良いからとっとと何処かに行け。」

「あっそ。マスカーレイド、行こうぜ」

「うーん、じゃ、まぁそう言う事で」


先を歩くユーマはユリエル達を気にもせず、マスカーレイドに帰ることを促す。
少し気にしつつも、マスカーレイドはユーマと共にその場を立ち去った。


残されたユリエルは痛む身体を押さえ、傷ついたガーディアンを起こして肩を貸す。


「行くぞ、大丈夫か?」

「レフ……トナン……ト」

「良い、もう喋るな。……巻き込んでしまって悪かったな」


半分意識を失ったガーディアンはユリエルにもたれ、なんとか足を引きずる。
一人一人をBARに運びながら、ユリエルは考えた。


「……希望の光は弱くても良い、守られるべき存在なのだから……か……」


センリの言葉を、独り反芻していた。




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あきゅろす。
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