道化の国
連座
「何これ?」
マスカーレイドは自分の頬すれすれに突き出されたレイピアを横目で見て、おどけるような声で後方にいるガーディアンに聞いた。
「ガーディアンを侮辱した報い、受けるがいい!」
「ちょっと、俺、そんなつもりないんだって」
サッと身を翻し、マスカーレイドはレイピアから間合いを取って体制を整えた。
「面倒だな〜」
「なんだ、こいつ等……。マスカーレイド、やって良いのか?」
突然刃を向けられた憤りが、ユーマの顔を綻ばせる。
「うーん……、こうなったらもう仕方ないでしょ。良いよ、ユーマ」
マスカーレイドの許しが出るのが早いか、ユーマの行動の方が早いか。
腰に着けていたナイフを手に取り、レイピアの細い切っ先を弾くとガーディアンに向かっていった。
金属音が交じり合うと、他のガーディアン達もレイピアを抜き、迫り来るユーマに刃を向けた。
「お前達、ただで済むと思うな!」
「それはこっちの台詞だ、テメェ等が先に手を出したんだからな」
ユーマはレイピアを軽々とかわしながら間合いをつめて相手の懐に飛び込むと、ナイフがコートの襟を掠めた。
急所を狙ったユーマのナイフが僅かな所でかわされ、切り裂かれた箇所はちょうど階級章が飾られた部分。
「おのれ……、階級章を傷つけるとは……不埒な事を!」
怒り狂ったように咆哮を上げ、我武者羅にユーマにレイピアを突き出した。
「くっだらねぇ……」
ユーマはガーディアンの怒りを嘲笑い、大きく突っ込んできた一瞬の隙を突いて懐に飛び込んだ。
レイピアはユーマの頭上を掠め髪の毛先を散らせると、ユーマのナイフは厚手のコートを切り裂いてガーディアンの肉を捉えた。
確かな手ごたえを感じたユーマはニヤリと笑い、ナイフについた血を振り払った。
「……グァッ」
「ガーディアンってこんなもんなのかよ」
馬鹿にしたように笑い出すユーマに、周りのガーディアンはレイピアを構えた。
「許さん……、死ね!」
「そう簡単にくたばるかよ」
嬉々として軽い足取りでレイピアをかわし、ユーマはまた一人ガーディアンの膝を地に伏せさせた。
他人事のように傍観していたマスカーレイドに、怒りで身体を震わせるガーディアンが近付く。
「……って、俺も狙われてる、の?」
マスカーレイドはポケットからカードケースを取り出すと、一枚のカードを指先で持った。
「喧嘩は苦手なんだけど、なっ!」
マスカーレイドの手から放たれたカードは、真っ直ぐに相手のアキレス腱を狙った。
革のブーツを裂き、研ぎ澄まされた刃が仕込まれたカードは、いとも容易く敵の急所を切り裂く。
「勘弁してよね。俺、血を見るのあんまり好きじゃないんだよ」
うんざりした様子のマスカーレイドは小さく呟くと、瞳から強い怒りの光をちらつかせた。
「けど、美咲を傷つけるのは許せないよなぁ」
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