道化の国
レフトナント・ジェネラル
「此処だな」
一人先に歩いていたユーマが足を止めて扉の前に立った。
立ち止まるユーマの前を通り、センリは戸惑う事なく扉を開いた。
「ユリエルは居ますか?」
「もう来たのか」
薄暗い店内に一人で椅子に腰をかけていたユリエルは、センリが来るのがわかっていたと言わんばかりに背を向けていた身体を向き直した。横柄な態度で座るユリエルは長い足を組み直し、ニヤリと笑いセンリを眺める。
僅かばかりの挑発に顔色一つ変えないセンリを見て、ユリエルはつまらなさそうに立ち上がると、センリのいる扉に向かって歩みを進めた。
「何の用だ」
「何の用だなんて、……貴方が一番良く知っているのでは?」
「……お前の女の事か?」
「貴方は美咲の首を絞めましたね?」
センリは刺すような目付きでユリエルを射抜き、低い声で聞いた。
静かな怒りを秘めたセンリを目の前に、そんな事かとユリエルは鼻で笑いながらセンリに近付いた。
「だからどうした?弱い奴を掃除しようとして何が悪い」
「……希望の光は弱くて良いのです。守られるべき存在なのだからこそ、自分の存在価値が高められる。自分を必要とされる喜びを、貴方は知らないのですね」
「そんな事で喜ぶなんて、間抜けだな」
侮蔑した笑いを見せるユリエルは、高慢な態度で腕組をしてセンリを見下ろした。
センリがユリエルのコートに視線を向ければ、袖口に太く白いラインが一本に、細いラインがニ本入っている。
立てられたコートの襟には、二つの剣がクロスに交差され、横には王冠の刺繍が施されている。
「レフトナント・ジェネラル……ですか、随分偉い方なのですね。」
「まぁな、……時期ジェネラルだ」
「このような方がジェネラルだなんて、この国の先が思いやられます」
「なぜ?」
皮肉めいた笑いを浮かべ、ユリエルはセンリに聞いた。
「貴方が美咲に対してやった事は、最早正義ではありません。貴方が取り締まるべき存在と同等の野蛮な輩です。そんな方がジェネラルだと思えば、先が思いやられると言ったのです。それに希望の光の存在をそのように軽んじているだなんて……、頭の固い人にはジェネラルは務められないのではないのですか?」
「ほぅ……、言ってくれるな」
「貴方の言う正義は押し付けでしかない。そんな物なら国を守る意味すら歪んでいます」
扉にもたれながらセンリ達の様子を窺っていたマスカーレイドとユーマが数人の足音に気付き振り返ると、ユリエルと同じ青藍のコートを着た男が五人近寄ってくるのが見えた。
「お前達そこで何をしている。この店はガーディアンの溜まり場だと知っているのか?」
「知ってるよ、用事があって来たんだもの」
凄みを利かせるガーディアンを目の前に、飄々と話すマスカーレイドはそれ所ではないと言った雰囲気で再び店内に視線を戻した。
「何だ、その態度は。俺達ガーディアンを愚弄するのか?」
「別に馬鹿にしてないよ、それくらいの事で一々目くじら立てるなって」
面倒臭そうに後ろ手で手を振り、マスカーレイドは店の中が気になって仕方がない様子だ。
しかしその態度がガーディアン達の逆鱗に触れてしまった。
「貴様……」
金属が擦れる音がすると同時に、マスカーレイドの顔の真横にレイピアが翳される。
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