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道化の国
解毒



「美咲……」


ジェード・バインに囚われた美咲に、センリは辛酸を舐めるように悔しさと悲しみで胸中を溢れさせる。

センリに抱きしめられるのが嫌なのか、美咲は弱々しく身を捩り身体を離そうとセンリの胸を押した。
押される身がとても痛く感じられ、センリは憂色を濃くする。


「美咲……」


センリは身を捩る美咲の身体を強く抱き締め、柔らかな髪に顔を埋めた。
一刻も早く、いつもの美咲に戻ってもらいたい……。ただそれだけを願って。


「センリ!これ、解毒だってよ!」


走って来たユーマは息を切らせ、センリに近寄った。
センリは顔を上げてユーマの息が落ち着くのを待つと、やっと見つけたと言いながら小瓶をセンリに手渡した。


「一瓶全部飲ませろってさ。たぶん効くだろうって言ってた」

「ご苦労様でした、助かります。……最後の一言はあまり聞きたくないですが、背に腹は変えられません」


センリは早速蓋を開けて瓶の中身を口に含むと、美咲の口内へと流し込んだ。
ドロリとした液体は口の中に満遍なく広がり、粘つく感触が喉を通るのを拒む。


「んーっ!んんッ!……ゲホッ!……んぐっ」

「美咲、全部飲んでください」


美咲は咳き込みながら吐き出そうとするが、センリがそれをさせないよう顎を上に向け嚥下させ、暴れる手を片手で一つにまとめた。
少しの後、美咲が咳き込みながらゆっくりと瞼が開いた。


「っ……、ゲホッ、……ぁ」

「美咲、大丈夫ですか?」

「……セン……リ」


おぼろげな瞳でセンリを見つめる美咲は、定まらない視線をゆらゆらと動かした。
薬が効いてきたのか、虚ろだった瞳は徐々に輝きを取り戻し始める。


「今のは花の解毒です。呪縛から解かれて良かった……、これで完全に正気に戻れます」


混濁する意識の中、身体中を走る痛みに気付き、首や肩を擦りながらいまだに咳込む美咲。
そんな美咲に視線を落とせば、センリは紅い指の痕を首筋に見つけた。何かを言いたげに眉を吊り上げ、目を細めた。


「……美咲、マリカを呼びますから一緒にフィールドへ戻ってください。私は所用が出来ました。ユーマ、貴方は……」

「俺も行く」


ただならぬセンリの気配を察知し、ユーマはニヤリと笑った。

それからセンリは小さな硝子玉を取り出し、それを地に叩き付けると急用ですと呟いてマリカを呼び出した。


「美咲、無理はしないでください。まだ身体がふらついていますから、大人しくしているのですよ?」


涙目になっている美咲を力強く抱き締め、センリは髪に顔を埋めているとマリカが早速現れた。


「美咲……、美咲が見つかったのね……、良かったわ」

「マリカ、お願いがあります。美咲と私のフィールドで待っていてください」


怒りの色をチラつかせるセンリに、マリカは眉をひそめる。


「良いけど……どうしたの……。……わかったわ。で、センリは何処に行くの?」


センリに抱き締められる美咲を見れば首筋に紅い指跡を見つけ、マリカはセンリの怒れる様子をすぐに悟った。


「説明は後でします。では、お願いしますね。美咲は良い子で待っていてください」

「センリ……」


センリはマリカに美咲を託し、切り裂かれた空間に入る二人を見送った。


「ユリエルの仕業ですね……、美咲を排除なんて……させません。ユーマ、行きますよ」

「おう」






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