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道化の国
愛と鞭


センリはテーブルの上に、数本の鞭を並べ手入れを始めた。


「困りましたね・・・。」

「どうしたの?」

「手入れをするための道具を切らせてしまって・・・、すぐに戻ります。」


センリは言葉少なくスッと立ち上がり、フィールドから出て行った。
美咲はセンリの背を見送ると、主から離された鞭だけがポツンと所在なさげにテーブルに置いてある。


「鞭を操るセンリって素敵・・・。」


美咲は鞭を手に取り、センリの姿を重ねる。


迷いなく大胆な動作でありながら、湾曲するしなやかな鞭の動き。
涼しげな表情でセンリは軽やかに腕を振い、鞭を容易く扱うその姿。

愛しい人を、美咲はうっとりと想い描く。


「私もセンリみたいに出来るかな・・・?」


美咲は柄を握り、ゆっくりと立ち上がった。
意外に重量感があり、ズシリと手にそれを感じる。


「確か・・・こんな感じで、センリは・・・。」


尻尾が垂れたように床を這う長い鞭を、センリが扱うように腕を振るった。




「美咲、今戻り・・・・。」


出掛けていたセンリがフィールドに戻ると、その視界には――。


「美咲は嗜虐趣味があったのですか?・・・言っていただければ、私が・・・。」

「ち、違うの!センリ誤解なの!」


美咲の身体に鞭がグルグルと巻きついており、勢い余ってコテンと床に転がってしまう。

もぞもぞと身体を捩らせ鞭の戒めから逃れ様とするが、センリは跪き美咲の髪をソッと撫でる。


「ですが、その格好は・・・。緊縛が好きだったとは、気付きませんでした。今まで我慢していたんですね、すみませんでした。」


苦笑いを浮かべるセンリは、美咲の身体を抱き上げリビングを後にした。


「だから・・、違うの解いて!」


焦れば焦るほど、美咲に絡まる鞭は外れる事はなく。
雁字搦めに巻きつく鞭を必死に解こうとする美咲は、センリを見上げる。


「ですが、折角このように用意されている美咲を前に、解かなくても・・・。」


ベッドルームへの扉を開け、色香を漂わせるセンリは微笑んだ。


「でもね、あの、そうじゃなくて・・・。」

「さぁ、お喋りはこの辺で・・・、美咲・・。」


優しくベッドに横たわらせ、美咲の唇に触れるだけのキスを落とす。


「ちがっ・・・あッ!セン・・・。」


センリの誤解も鞭同様、暫く解けることはなかった。





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あきゅろす。
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