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道化の国
夜陰の森2



少し歩くとセンリの足が止まり、美咲はセンリの背中からソッと前を見た。


「すご……い……、こんなに大きな花。これがジェード・バイン……」


美咲の目の前にあるのは、葉のない枯れた蔦に大胆に絡まるその蔓は寄生する主よりも太く大きく、その翡翠色の花は暗闇にぼんやりと浮かび上がっている。

1メートルもの長さの房状に咲いているジェード・バインは圧巻であると同時に、その禍々しいまでの蒼が美咲の心を掻き乱すかのようだ。
目にした花の姿に心臓を鷲掴みされたかのようになり、胸が締め付けられる。視覚がジェード・バインの蒼に染まり、美咲の思考は正常でいられなくなる。

センリの背から離れた美咲はジェード・バインの目の前に行き、上方からぶら下がるその花に手を伸ばした。
艶やかでしっかりとした質感の花房は、美しい蝶形花冠を模っている。

美咲はただ無言でジェード・バインを撫で、魂が吸い寄せられるように唇に花房を近づけた。


「あら、美咲どうしたの?」


その様子を見ていたセンリは、眉をしかめながら美咲に近付いた。


「美咲」

「ね、本当に美咲、どうしたの?」


様子のおかしい美咲に、皆は首を傾げ顔を覗き込んだ。

どこか生気のない表情に、曇った瞳。
いつもの澄んだ輝きは、どこにも見られない。


「ジェード・バインに、囚われてしまったようですね……」

「え、どう言う事なの?」

「ジェード・バインはある種の人間を虜にし、自分の側に置きます。そして離れられなくなった人間の屍を養分にして生き続けるのです」

「じゃあ、美咲は……」


センリの言葉を理解すると、マリカは息を呑んだ。
恍惚の表情でいる美咲に小さく息をつき、センリは続ける。


「囚われた人間の話を特に聞かなかったのですが、最早このような話は昔話だとばかり……。まさか美咲が……」


センリの話を聞き唖然とするマリカは慌てて美咲の名を呼ぶが、一向に応えようとしない美咲に愕然とした。


「ともかく、一旦離れましょう。美咲、帰りますよ」

「イヤ!離して!私はジェード・バインの側に居る!」


センリが美咲の腕を取り、暴れるその身体を押さえていると、一人ジェード・バインを眺めていたユーマが呟いた。







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