道化の国
夜陰の森1
暫く経ち約束の時が近付けば、浮き足立つ美咲がセンリに早く行こうと急かす。
「センリ、もう皆来てるんじゃない?」
「少しぐらい待たせても、問題ありませんよ。……そんなに楽しみですか?」
「うん、この国に花があるの初耳だし、蒼く光るなんてどんな花なのか……。マリカ達の話を聞いていると私の想像を超えそうで、とても楽しみなの」
タキシードに袖を通し、颯爽と裾を翻すセンリは涼し気に微笑む。
それほどまでに楽しみにしているのであれば、連れて行くのも悪くないと思い始めていた。
美咲の驚く顔が容易に思い浮かぶセンリは笑みを零し、美咲に手を差し出すと身体を寄り添わせながらフィールドを後にした。
待ち合わせ場所には既に皆が集まっており、ユーマは遅いといきり立っていた。
「随分早くから居たみたいなのよ。あと、マスカーレイドはデートで忙しくて、来れないって言ってたわ」
マリカも今しがた来たばかりらしく、待ちくたびれた様子がない。
「そうですか、じゃあ行きますか」
「おい!待たせた詫びもないのかよ!」
「……あぁ、遅くなってすいませんでしたね。では、行きましょう」
ユーマの憤りを軽く受け流したセンリは、美咲の肩を抱いて先を歩き始めた。
怒りの納まらないユーマの膨らんだ頬を、マリカは面白半分に突っつきながらセンリについて行った。
建物の間をすり抜けどんどん歩いてゆくと、一段と薄暗い一角に出た。
「ここが夜陰の森です。この奥にジェード・バインが咲いていると思います」
鬱蒼とする枯れた蔦は雁字搦めにアーチ状になって、不気味な口を開けている。
「……何だか薄気味悪いね」
今一歩足を踏み出せない美咲は、センリの手をギュッと握り締めた。
「怖いのなら帰りましょうか?」
「だ、大丈夫。此処まで来て、帰りたくない。絶対見たい……」
小刻みに震える身体の何処に、ジェード・バインを執着させるのか。
センリは不思議な気持ちで美咲を見つめた。
「では、私の後ろに隠れてついて来ますか?」
「……うん」
怖がる美咲を背に隠し、センリはゆっくりと歩みを進めた。
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