道化の国
余韻
倭の国から帰ってきてからだいぶ経った頃。
美咲はマリカ達と、倭の国での情景を思い出しながら談笑をしていた。
「倭の国に咲いていた花……綺麗だったなぁ」
「美咲は花が好きなの?珍しいわね」
ティーカップを片手に、マリカは意外そうな表情で美咲を横目で見た。
「うん、けど珍しいのかな……?」
「この国の住人は花になんて興味持たないわ。よっぽど変わった人間じゃないと、花になんて近寄らないかもしれないわね」
「変わった人間……」
眉をしかませる美咲に、マリカは苦笑いで受け止めた。
「もっと自分の心を高揚させるような物じゃないと、道化の国の住人は面白くないのよ。だから花になんて興味がないの。美咲は色々な事に興味があるのね、それは悪い事じゃなわ」
そうなものなのかと美咲は少しだけ納得をし、倭の国の咲き乱れる花々に思いを馳せる。
「ね、マリカ。この国には、花は咲かないの?」
「何処かに咲いてると思ったんだけど、何処だったかしら。マスカーレイドわかる?」
「え、俺?んー……」
額に手を当て仰ぐマリカと腕組みをしながら唸るマスカーレイドは、静かに記憶を手繰り始める。
「森……、夜陰の森に蒼い花が咲いてるわ」
「あ!そこ、そこだ」
手をポンッと打ち、マスカーレイドはマリカを指差した。
「夜陰の森?」
「この国の外れに夜陰の森って場所があるのよ。そこには、暗闇に淡く光る大きな蒼い花があるの。……たぶん、今もあるんじゃないかしら」
「見てみたい……」
「センリに言えば連れてってもらえるんじゃない?お願いしてみたら?」
「うん」
「私も久しぶりに行ってみようかしら」
「じゃあマリカも一緒に行こう?マスカーレイドもどう?……そうだ!ユーマも呼ばない?どうせなら皆で行きたい」
名案とばかりに手を叩く美咲に、マリカとマスカーレイドは顔を見合わせた。
「話が大きくなってきたわね……」
「センリが面白くない顔をしそう……」
互いの顔を見合って、二人は黙って頷いていると。
「私が何ですか?」
「やぁセンリ、お邪魔してるよ」
漸く皆の集まるリビングに姿を現したセンリは、マスカーレイドにまた来たかと言わんばかりに冷ややかな瞳を向けた。そしてそのまま美咲の座るソファーの隣りへと腰を降ろした。
「センリ、夜陰の森に行きたい、皆で。……駄目かな?」
「……なぜ夜陰の森へ?」
どうしてそんな話になったのかと、センリは怪訝な顔でマスカーレイドを睨みつけた。
「美咲は花が見たいんだって、この国で花が咲いてる場所はそこしかないからなー」
「ジェード・バインですか……。しかしあの花は……」
センリが言いよどんで隣りに目を向ければ、美咲がワクワクした様子で夜陰の森の話をマリカから聞いている。
「美咲が見たがっているジェード・バインは魔性の花。魅入られれば、離れられなくなります。そんな危険を冒してまで……」
センリは渋い顔をし、行く事に異議を唱えた。しかし美咲の視線を感じ、目を向ければ視線が絡まり合う。
悲しげな表情の美咲から無言の圧力をかけられ、センリは言葉を詰まらせてしまった。
無意識のうちにしているのはわかるが、センリとしては断れない状況にもっていかれてしまう。
「……良いですよ。但し、花には不用意に近付かないでください。引き込まれて……」
「良いの!?マリカ、センリが連れてってくれるって!」
満面の笑みでマリカに嬉しい報告をし、センリの台詞を全て聞く事なくその場は終わってしまった。
「まぁ……昔話ですから、大丈夫でしょうけど……」
少々の不安が残るセンリだが、美咲の嬉しそうな顔を見ていると、これで良かったのだとさえ思えてきた。
[次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!