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道化の国
梔子の間7


「美咲……」


いまだすすり泣く美咲の側に、花月が泣きはらした顔で微笑みかける。


「花月、良かったね……」

「……ありがとう。……あの、さっきは悪かった。その、美咲を疑ったりして……」


少し後ろめたそうに俯く花月は、小さな声で謝罪を口にした。


「それは、白露が悪いのです。何も言わず、一人で全部片をつけようとしたのです。花月が疑ったのも無理はありません。そうですよね、白露」


センリは横目で睨むが、白露は素知らぬ様相で表情を変えない。
その飄々とした様子に釈然としないセンリは、言葉を続けた。


「私の承諾も無しに美咲を勝手にこんな場所に連れて行って、どういうつもりなのですか?しかも、花月が誤解して、美咲は怒鳴られたのですよ?貴方は花月と気持ちを通じ合えて、万事丸く収まったとお思いでしょうが、そうは行きませんよ。美咲が許したとしても、私のもとから美咲を連れ去られた時の悲哀、喪失感を私は絶対に忘れません」

「セ、センリ……」


センリの止まらない台詞に、美咲の涙はとうに引っ込んでしまい。
そこまで怒らなくてもと言いたくとも、言葉を言いかければセンリの哀しそうな笑みで言葉を飲み込んでしまう。

呆気にとられていた白露は額に手を置き、苦笑いを浮かべた。


「いや、悪かった。あの時は、見合い相手が来てしまっていてだな、少し焦っていたんだ。すまなかった」

「言葉尻に随分余裕が感じられますね。」

「そんなに尖るな。今までの重圧から解放されて、気持ちがだらけているんだ。少しは大目に見ろ」


瞳を伏せて大きくため息をつくセンリは諦めたのか、瞬きをする美咲を抱きしめた。


「もうこんなわけのわからない事に巻き込まれるのは、二度とごめんですからね」


拗ねた様子のセンリは白露をきつく睨みつけ、ボソリと呟いた。


「出来るだけ約束する」


センリと白露の視線がぶつかり合い、その後、どちらともなく笑い出した。


「良かったですね、白露。身持ちの硬い朴訥(ぼくとつ)な貴方も、漸く報われましたね」

「素直に喜べるような言葉じゃないが、ありがとう」


センリ達は互いのパートナーの見つめ、小さく微笑みあった。





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