道化の国 梔子の間6 「よ……良かったね……。花月……」 美咲は幸せそうに抱き合う二人を見て感極まり、流れ出る涙は止まる様子がない。 センリはそれを見て、優しく肩を抱きしめた。 「何も……、美咲が泣く事はないのですよ?」 「だって花月が……、良かった……、センリ……よかっ……」 嗚咽する美咲をセンリは自分の腕の中に、ふんわりと包み込んだ。 「美咲の泣き顔を、あまり人目に晒したくありませんね」 「ご、ごめん……。けど……、涙……止まら……」 「良いのですよ。ただ、美咲の涙はあまりにも綺麗ですから。……こうやって、私に独り占めさせてください」 すすり泣く声はセンリの胸に吸い込まれ、小さく肩を震わせる美咲をずっと抱きしめていた。 「マスカーレイド、私達はお邪魔だから倭の国見物にでも行くわよ」 外縁に腰を下ろしていたマリカは、マスカーレイドの袂を引っ張りながら立ち上がった。 「あれ、マリカ。何か涙声」 「煩いわね、良いから行くわよ!」 スンと鼻をすすり、マリカは熱くなる瞳を空に向けた。 「いい天気ね、陽の光が眩しいわ……」 「誤魔化さなくても良いのに。マリカも泣く事あるんだ、初めて見たかも」 「何か言ったかしら?」 「何でもないよ。さて、今日は何処に行ってみようか」 熱くなる日差しの中、少し瞳を赤くさせるマリカをからかいながら、マスカーレイドは倭の国の散策へと赴いた。 道中でのマスカーレイドとマリカの会話は、これから始まる二人の事ばかり。 「ね、白露達別れるかな?」 「白露がそれを許さないんじゃない?第一、やっと始まったばかりの二人にそんな事言っては駄目よ」 「こんな事言ったら、白露と花月の二人に殺されるよ。言うわけないじゃん」 ケタケタと笑うマスカーレイドに、マリカはニヤリと口の端を上げていた。 「そうね、殺されちゃうかもしれないわね」 [*前へ][次へ#] [戻る] |