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道化の国
一緒にお風呂


紅くなった顔も帰路につくと落ち着き、フィールドに戻った美咲は漸く一息つく事が出来た。


「美咲」


手招きするセンリは徐に両手を広げ、はにかむ美咲はゆっくりと近寄った。
センリの大きな胸にすっぽり収まる美咲は、温かな体温に心地良さそうに瞳を閉じる。


「一緒にお風呂に入りますよ」

「えぇっ!?」

「別に何もしませんから」

「いや……あの、そう言う事じゃ、えっ?ちょっと……!」


有無も言わさず、楽しそうに美咲の服を脱がしセンリも全裸になる。
目のやり場に困る美咲は、腕で胸を押さえセンリに背を向けた。


「さぁ行きましょう、私が洗ってあげますね」


後ろから抱き締められ、耳にキスをしながら囁く。


「あ……駄目……ぁ」


僅かに与えられた悦に身体が震え、甘い声が零れる。


「何もしないと言いましたのに……。美咲にその気があるのなら、……話は別ですよ?」


小さく笑いながら美咲の髪を掻き上げ、肩から首筋に唇を這わせる。


「……そう……じゃな、い……ひゃぁ」

「嘘はいけませ……」


美咲の身体を愛撫していた、センリの動きが止まる。
火照った身体に困惑している美咲は、ふらつきながらも静かになったセンリの方に振り向く。


「センリ……?」

「美咲、誰かと……出逢いましたか?」


いつもの様な優しい声ではない、微かに緊張を匂わせるセンリの声。


「ど、どうしたのセンリ?」

「誰と出逢ったのですか」


聞き慣れない声のセンリに、慌てて記憶を呼び覚ます。


「あ……うん。ユーマって人に逢ったような気がする。でも逢ったって程じゃなくて……」

「それはいつですか?何かされませんでしたか?」

「あのピンクトルマリンを選んでいる時、センリ何処か行ったでしょう?その時に気付いたら空間が裂けてて、後ろから腕を掴まれてたの。真っ黒な闇の中に引摺り込まれて、……でも何もされてないと思う」

「……」

「あ!でも、腕から解放された時、突き飛ばされて膝をぶつけて……それが痛いかな」

「ユーマ……」


恐る恐るセンリの表情を伺えば、静かな怒りを湛えて身体全体に現していた。


「セン……リ?」

「貴女は気にしなくて良いです。……少し出掛けて来ます、良い子に待っていてくださいね」

「嫌っ!待って、そんな怖い顔して何処行くの!?私がユーマと逢った事、言わなかったのがいけなかったの?けど一瞬の事で夢かと思うくらいで……」


裸だった事も気にせず、美咲はセンリにすがり眉尻を下げる。

センリは不安そうな表情の美咲に視線を落としてため息をつき、苛立った気持ちを少し落ち着けた。


「……違います。美咲に怒ってるのではありません。だから、そんな顔をしないで下さい」


美咲の頬を両手で掬い上げる様に包み込み、額に優しいキスをする。


「でも……」

「貴女は気付いていないようでしたから、黙っておこうと思ったのですが」

「……何を?」

「私がつけたものではない印があります。ユーマが悪戯したようですね」


美咲の首筋に咲いた、紅い花びらのようなキスマークを指差す。


「何処……?あ……あの時、チクッて痛みが。……もしかして、それ?」


センリが示す場所を見つけられず、首筋を手で触れる。
美咲が見えないのは当然で、首筋も背中側だから気付く事がなかった。


「美咲の白い肌に触って良いのは私だけです。ユーマは私を怒らせたいようですね」


センリの瞳は燻る怒りを秘め、美咲に悟られぬように作った笑みを歪ませた。





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