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道化の国
美咲とユーマ


「誰!?」


もがく美咲は身を捩り、後ろ手に腕を掴み上げる何者かに向かって声を上げた。
きつく腕を掴まれているために身動きが取れず、その人物を確認出来ない。


「俺は、ユーマ。お前がセンリの希望の光か?」

「だったら何?私をお店に、元の場所に帰してっ!」

「生意気な奴は嫌いだ」


掴まれていた腕が軋むほど強く握られ、姿の見えないその男に恐怖を覚えた。


「……痛ッ、離し……て」

「……フンッ」


不機嫌な声を出すユーマによって、後ろに無遠慮に引っ張られバランスを崩した美咲は、ユーマの胸の中に背中から飛び込んだ。


「きゃあっ……イ……タッ」


おぼつかない足元に気を取られていると、首筋に刺すような痛みが走った。
驚き目を見開くと、閉じそうになっていた裂け目に美咲は突き飛ばされた。


「きゃ……ああッ!」


何の予告もなく突き飛ばされ、その拍子に膝をぶつけた。
痛みに意識を奪われていると、切り裂かれた空間は既になくなっていた。


「一体……何だったの?」


あまりにも一瞬の出来事で、美咲は夢でも見たんじゃないだろうかと思い始めていた。

しかし現実には、美咲の足には鈍痛を訴えている。


考え込みながらぶつけた膝をしゃがんで撫で擦りしていると、センリが店に戻って来た。


「どうしたのですか?そんな所にしゃがみこんで」


センリは膝をついて屈み、美咲の顔を覗き込む。


「う……ん、転んだ?」

「何故疑問系なのですか?……膝が赤くなっていますね、大丈夫ですか?」


苦笑いを浮かべながら、赤くなった膝をセンリの冷たく細い指でさする。


「よくわからないんだけど……、でも大丈夫。痛くないよ」

「そうですか?あまり無理はしないでくださいね。……気に入った物はありましたか?」


センリは美咲の両脇に手を入れて膝を立たせると、指定位置とばかりに指を絡ませ手を繋いだ。


「え……とね、これなんだけど…。綺麗だなって、桃色の氷の粒みたいで、なんだか魅かれたの」

「そう……ですか。美咲は可愛いですね、この石の意味がわかりますか?」

「意味?」

「えぇ、これはピンクトルマリンと言って、持つ人の魅力を高め、恋の力をもたらすそうですよ」

「へぇ、そうなんだ」


センリの説明を聞き、美咲がその石を見ていると。


「これ以上魅力を高められたら、私の体力が持つかどうか……覚悟しておきますね。」


怪しい笑顔のセンリに、たじたじの美咲。


「これはルースなので、何かに加工してもらいましょうか。リングにしますか、それともネックレスにでも……」

「指輪はセンリのこれがあるから、ネックレスに……でもルースって何?」


小首を傾げながらセンリに疑問を投げかける。


「ルースとはこの石だけのように、アクセサリーとして出来ていない裸石の事です。それに、私の印として美咲が今身に着けているそのリングの石はルビーで、意味としては情熱や愛の炎です、私から美咲への愛の形なんですよ」

「へ……ぇ、そんな意味が込められているだ……」


美咲は薬指に付いた深い真紅のルビーを眺める。

これがセンリからの愛の形と思うと照れてしまい、一人赤面してしまう。


「じゃあネックレスにでもしてもらいます。帰りましょうか」


紅に染まる美咲の頬を撫で、センリがほくそ笑む。

赤面してる事がばれてまた恥ずかしくなった美咲は無言で頷き、寄り添いながら二人はお店を後にした。







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