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道化の国
夏椿の湯殿4



のぼせる寸前まで湯を堪能していた美咲は、センリに抱きかかえられ露天風呂から出た。


「露天風呂は簡単にのぼせる事はない筈なのですが……」

「だって……」


美咲は庭に、センリの湯浴み姿に見惚れていつも以上に長湯をしてしまい。

煙る湯気の中、汗を滲ませるセンリが艶やかで、ほんのりと色気づいた頬がなめまかしく。
直視出来ず、しかし見たいと言う気持ちもあり、チラチラと盗み見ていたなどと言えず。


「だって……、何ですか?」

「……何でもない。大丈夫だから下ろして?」


裸のまま抱きかかえられていた美咲は、手で身体を隠すようにして床に足をつける。
センリからバスタオルを渡され身体に巻くと、白露が用意してくれた浴衣を広げる。

白地に大輪の赤い椿がひっそりと咲く、可愛らしい浴衣が目に飛び込む。


「私が着せてあげます」

「センリが……?出来るの?」


クスリと笑みを漏らすセンリはさも当然とばかりに頷き、自分の浴衣に帯を巻き男結びで簡単に終わらせ、浴衣を美咲に羽織らせた。


「これくらいなら、私にも出来ます。着物は出来ませんが、美咲に必要でしたら覚えます」

「センリは何でも出来るのね、すごい……。私も何か出来る事、覚えてみようかな」


センリに比べて何も出来ない自分に、美咲はため息をつく。


「美咲はそのままで良いですよ、私は美咲にしてやりたいから覚えるだけです。それに……、美咲が何でも器用にこなしてしまえば、私は用済みになってしまいます。それだけは避けたいですね」


美咲は思わず身を屈め、クスクス笑いながら真面目な表情で着付けるセンリを見つめる。


「何か、おかしかったですか?」


センリは着付ける手を止め、尚も笑う美咲の顔を覗き込む。


「センリに甘やかされ過ぎて、私、何も出来ない娘になっちゃう」

「それで良いのですよ。そうなれば、美咲は私からずっと離れられませんでしょう?」


シュルリと帯を回し美咲の後方に回り込むと、手早く文庫結びを施しポンッと結んだ帯を叩いた。


「はい、出来ました。簡単な結び方しか出来ませんが、今度色々と勉強しておきます」

「ありがとう、センリ。すごく上手」


美咲はその場でクルリと回り、浴衣の模様を眺める。
喜ぶ美咲の姿を見れたセンリは満足そうに微笑み、湯殿を出ようとすると、美咲がポツリと零した。


「……私が何でも出来ても、センリから離れないよ?私がセンリにいつもしてもらっている事を、センリにお返ししたい」

「美咲……」


花が綻ぶ笑みで、美咲はセンリに微笑んだ。






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