センリ達は硝子越しに見える様々な品物を眺め、街を歩く。
日用品や美しい装飾品、どのような実用性があるのかわからない物があちらこちらに綺麗に陳列されている。
物珍しさも手伝って、美咲はそれらの品物に目を奪われた。
「……綺麗」
美咲は一軒の店の前に立ち止まり、硝子越しに目に止まった一つを見つめている。
視線の先には、白銀に深く青い色の石が付いたロザリオがあった。
「美咲も宝飾品に興味がありますか?」
隣に立つセンリが耳元で囁く。
「……興味がないわけじゃないけど、綺麗な物は好きかも」
「では中に入ってみますか?」
「良いの?」
もちろんと言って微笑むセンリが扉を開け、美咲を店内へとエスコートする。
店内にはさほど品物はなく、ブレスレットやリング、ネックレスと言った小さく細々した物が少し置いてあるだけだった。
「此処に置いてある宝飾品は、全て意味のある物達です。気に入ったのがあれば言って下さいね」
「えぇ!?私は見るだけで十分だよ、買ってもらわなくてもいい」
両手を大きく振り、こんな高価そうな物はいらないと美咲は態度で意思表示する。
「良いですから。どれか目に留まった物はありませんか?私が貴女を良く知るための、アクセサリーなんですよ?」
「私を知るため?……でもやっぱり」
「遠慮は無用です。さぁ、選んでください」
互いに譲らない二人の勝負は美咲が根負けした事で決着がつき、渋々店内を物色し始めた。
「ゆっくり選んでくださいね、私はちょっと用事を足してきます。……一つ聞きたい事があるのですが。美咲、此処に来るまで誰かを見かけましたか?」
「んー……、誰も見なかったけど。それがどうしたの?」
「なら良いですが……。では私が帰って来るまで此処に居て下さいね」
そうしてセンリは優しい表情を見せ、美咲を残して店を出て行った。
センリを見送った美咲は、綺麗にカットされた桃色の小さな石が気になり手に取る。
「これ……良いかも」
呟きながら傍らに燈されているランプに石を翳し、うっとりとした瞳で見つめた。
透き通った桃色に柔らかなランプの灯が重なり、また別の色へと変化する。
何処か胸が満たされるような気持ちになり、深い吐息を吐き出した美咲は、ふと背中に違和感を感じ顔を向けた。
そこには切り裂かれた空間が闇色の口を開け、静かだった店内に似つかわしくない空気を垂れ流していた。
不安な面持ちで凝視し、美咲がそれから逃げようと後退りしようと足を一歩引く。
その僅か一瞬の時、裂け目から二つの腕が現れた。
「見つけた」
伸びて来た腕に手を取られ、美咲は声を出す事もなく闇が広がる切り裂かれた空間に吸い込まれていった。