道化の国
入国
「こら、花月!いい加減着替えろ!」
「白露だって着流しのままではないか!わたくしは、堅苦しいのが嫌いだ!――うぎゃっ!」
追いかけてくる白露を見ながら走っていると、花月は地上に張り出した木の根につまずき、豪快に転んでしまった。
「痛いではないか!」
「もう逃げられないぞ」
木の根に悪態をついていると、後ろから抑揚のない白露の声が聞こえる。
それと同時に肩を掴まれ、花月は完全に捕獲された。
「センリ達が来る前に、きちんとした格好で迎えるのが礼儀だろう。文句を言わず、さっさと着替えるんだ」
「……わかった」
納得した顔はしていないが、花月は仕方無しに頷く。
擦りむいた掌がピリピリと痛む事に気付き、ペロリと舐める。
「大丈夫か」
「着物が汚れてしまった」
白露が眉をしかめ、花月を覗き込む。
花月は土で薄汚れた手をほろい、土埃がついていた着物を手で払った。
「着物の事じゃない、血が出てるぞ。ほら、手を見せろ」
「こんなの舐めておけば治る」
再度傷口を口元にもっていこうとすると、白露に手首を捕まれる。
ふと自分の手を目で追えば、赤く擦れた傷に白露の舌が這う。
花月は驚いて腕を引こうとするが、白露の力は強く、それを許そうとはしない。突然の出来事に、花月は顔を紅くさせてしまう。
それに気付いた白露は目を細めた。
「何を照れているんだ、恥かしいのか?」
更に火がついた様に真っ赤な顔をさせる花月は、白露に食ってかかった。
「わたくしが白露に照れるなんて事はない!恥かしくもない!」
「煩いですよ、一体何をしているのですか?」
「うぎゃあっ!センリ、い、いつからそこに……?」
誰もいないと油断していたせいか、急な声かけに身体を大きく揺らした花月は後ろを振り向いた。
「たった今ですよ、来て早々花月の怒鳴り声で歓迎されるとは、思ってもみませんでした」
「花月、招待状ありがとう!」
「美咲!……ど、ど、どうして、アイツが……!?」
一瞬だけ笑顔を見せた花月は顔面蒼白にし、センリ達の後ろをガクガクと震えながら指差す。
センリは後ろを振り向いてから、ゆっくりと花月に視線を合わせた。
「大勢の方が楽しいと思いまして」
ニッコリと笑うセンリと、苦笑いの美咲の後ろから、ガヤガヤと騒がしくする二人が近付いて来た。
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