道化の国 出発 「美咲、忘れ物はないですか?」 「うん、大丈夫」 「では、行きましょう」 センリは小さな手荷物を持ち、美咲の肩を抱いてフィールドを出て行った。 初めての道化の国以外への遠出。 しかも花月にまた会えるとあって、美咲は心躍る気分で表情がとても明るい。 ウキウキとした雰囲気がセンリにも伝わり、笑みを漏らす。 「たくさん楽しみましょうね」 「うん!」 待ち合わせ場所に行けば既に皆が集まっており、センリ達が一番最後であった。 「遅いぞ、センリ達で最後だ」 「すいませんでしたね、では行きましょうか」 センリが先を行こうとすると、物陰から小さな影が飛び出しユーマに抱きついた。 「ユーマ、探しましたわ!早く行きましょ、デートの約束しましたでしょう〜?」 「や、お前、何時の間に!!?止めろ!離せ、センリ!助け……ッ!」 ユーマと同じ年の頃の女の子が急に現れ、ユーマを引きずり連れ去って行く。 それは疾風の如く、瞬く間のうちにユーマの姿は見えなくなった。 美咲は突然の事に瞳を丸くさせた。センリはマリカとマスカーレイドに顔を向けると、二人はニヤニヤと笑っている。 「何か知ってるのですか?」 「最近、ユーマを追いかけてる娘。色恋は初めてだからユーマたじたじでさ。ククッ、振り回されてばかりらしいが、本当みたいだな」 「良いんじゃない?子供同士戯れてて可愛いわ」 他人事の二人はクスクスと笑い、ユーマの遅い春を喜んだ。 「ユーマはあの方に任せて、私達で行きましょう」 「可哀相だけど、仕方ないわよね。ユーマも青春の味を堪能しなくちゃね」 センリはそのまま歩き進め、ゲートへ向かった。 「楽しみだわ、うふふ」 「マリカは倭の国行った事あるの?」 倭の国への期待を胸に膨らませ、弾む気持ちを抱えたマリカは指を一本立てて「一回ね」と浮かれたように答えた。 「すごく綺麗な国なのよ。抒情的で、四季があるの。 蒼穹はどこまでも高く、陽の光は輝いて。夜の闇は漆黒で、冷たい月はどこまでも蒼白く、孤高を保っていて。あの衣装とマッチしてて、最高よ!」 詩的な言葉を並べるマリカは珍しく、美咲の視線は釘付けになってしまう。 マリカにそこまで言わせる倭の国がどんなものか、美咲の心は躍る。 少し歩くと小さなトンネルがポッカリと口を開けている。 「これがゲートです。このゲートを通り、この招待状を携帯しなければ倭の国へは行けないのです」 「ふーん……、倭の国までって遠いの?」 センリの持つ招待状を眺めながら美咲は頷き、ゲートの中へと歩みを進める。 「すぐに着きますよ。次元の歪みを利用したこのゲートは、招待状を鍵に何処にでも行く事が出来るのです。ですから、この招待状がとても重要なのです」 複数の靴音がゲートに響き、暗いその先には光が差し込んでいる。 自分達の足音以外何も音はなく、踊り出す気持ちを落ち着かせながら、美咲はゆっくりと歩いていた。 ―――その頃、倭の国では。 花月は白露に追いかけられていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |