道化の国
月白の蝶
美咲をたっぷりと堪能したセンリは、ゆっくりと身体を離して微笑んだ。
「ありがとうございます。おかげで元気になりました」
「センリ、元気なかったの?」
センリの変化に気付けなかったと、美咲はションボリと肩を落とす。
「美咲は気にしなくて良いのですよ。ただ……私の側に居てくれるだけで良いんですからね」
「でも……」
「心配かけてすいませんでした。さぁ、これから手紙を書かなくては」
センリは美咲を膝から下ろしてやり、机に向かって歩みを進める。
引き出しから真っ白な便箋を取り出し、サラサラと文字を書き始めた。
一通り書き終えると便箋を小さく折り畳み、掌に収まるほどの大きさにすると、両手でギュッと握り締めた。
するとパッと開かれた手から、ほんのりと青みがかる仄白い光を放つ蝶がヒラヒラと舞い飛び、瞬く間に飛散して消えてしまった。
僅かに残るのは、蝶を纏っていた光の粒の煌めき。
暫くすると、それもなくなり、蝋燭に照らされた室内の淡い光だけが揺らめく。
「センリ……今のって……、すごく綺麗」
「美咲は初めてでしたか」
光に吸い寄せられるように、美咲はソファーから立ち上がってセンリの隣に立った。そして瞳を輝かせながら、何度も頷いた。
センリは美咲を抱き寄せ、横顔を覗き込んだ。
「今のは白露に手紙を送ったのですよ。行きます、とね」
美しく羽をひらめかせた蝶の姿の余韻を楽しむ美咲に、センリは微笑む。
「とても綺麗で、とても幻想的な光ね。手紙が来た時も綺麗だったけど。本当、素敵……」
吐息を漏らすと、センリは耳元で囁いた。
「今度、教えてあげますね」
「うん、またあの光を見てみたい」
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