道化の国 柔らかな鎖 センリは籠一杯の綿を持って、部屋へ入って来た。 「センリ、それは何?」 「これですか?これは綿ですよ。」 「うん、見ればわかるんだけど・・・。センリはそれで何を作っているの?」 「ちょっと、思う事がありまして。」 そう言うセンリはロープ状になった長細い綿を、しきりに三つ編みに編んでいる。 嬉しそうに、楽しそうに、愛しそうに。 「気になりますか?」 その様子をセンリの脇で食い入るように見つめる美咲は、何度も頷く。 どこか期待に瞳を輝かす美咲を見てセンリは微笑み、手を休める事無く器用に編み続けた。 「――・・秘密です。言ったら、笑われてしまいそうで・・・。」 笑われそうな秘密とは何かと、頭の中で考える美咲は、何も思いつかずしかめ面をしてしまった。 「では、ヒントを差し上げます。」 「ヒント?何?教えて。」 小さく笑いを零し、センリは編んでいた綿を美咲の目の前に差し出した。 「これは何に見えますか?」 「うーん、三つ編み?」 何の捻りもない美咲の答えに思わず吹き出してしまうセンリは、美咲の頭を撫でながら続けた。 「では、これが最後のヒントです。これは、私と美咲の共有する物です。」 「私とセンリの・・・共有?・・・・うーん・・、わからない・・。」 「ただ、これは私の自己満足でしかありませんから・・・。美咲は気にしないでください、あとで教えますから。」 不満げな顔の美咲を宥めながら、センリは尚も編み続ける。 これは私と貴女で、共有する鎖。 柔らかな真綿で、鎖を長く編んで。 貴女を縛り付けるための、優しい鎖を。 逃げられない様に。 逃がさない様に。 私と、貴女を繋ぐ、大事な鎖――。 「センリ・・・これって・・・。」 「美咲が知りたかった物です。」 昨日センリが編んでいた、綿で出来た三つ編みが美咲の手首に巻かれている。 そして、それを手繰ればセンリの手首にも巻かれていた。 「ほんの遊び心です。」 少しの遊び心と、たくさんの本気。 もう少しだけ、付き合ってくださいね。 [*前へ][次へ#] [戻る] |