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道化の国
腕の中

「・・・・。」


少し眠くなったから、ベッドルームに行けば扉が薄く開いて、淡い蝋燭の灯が漏れている。

コッソリと覗けば、物思いに耽るセンリが腕を組んで椅子に腰を下ろしていて。

いつもなら簡単に気付く、私の気配を気付く様子がない。


少し俯くセンリは、顔にかかる髪を気にもせず。

細く長い指を顎先に当てている。


組まれた足は、比率が計算された様な美しさ。
微動だにしない身体なのにも関わらず、色気に似た何かが感じられ。

そんなセンリに見とれてしまい、ホゥと吐息を漏らしてしまっていた。


するとピクリと動く、その姿態。

髪で隠されていた、黒曜石の輝きの如き瞳が私を見つめる。


「美咲、いつからそこに?」


憂いを含む雰囲気だった先ほどとは違い、微笑むセンリは、とても柔和な表情で私を迎入れてくれた。


「・・・少し、前から。」


見とれていたなんて恥かしくて言えず、私は言葉を飲み込んだ。

センリに小さく手招きされ、思わず嬉しくなって、軽い足取りで近寄る。


「側に来たなら、声をかけてください。」


センリの台詞が終わると同時に、私の腕は絡めとられてしまい。

膝の上にチョコンと乗せられれば、背中に回された腕が優しく私を包み込む。


フワリと薫るセンリの香には、いつになっても慣れなくて。

最初の頃は気が遠くなるばかりで、平常心で居られなかった事を思い出す。


「考え事してるみたいだったから・・・、声をかけそびれちゃったの。」

「・・・考え事・・。確かに、考え事をしていました。」


センリの声が背中に響き、身体の中心から揺さぶられる。

押し付けられたセンリの頬の感触が心地良くて、瞼が閉じてしまいそう・・・。


センリの声が、気持ち良い―――。


「私は美咲の・・・。」




美咲の光に触れたその時から手放せない存在になっていて、この今が、この瞬間がとても幸せで。


腕の中にいる貴女が永遠に変わらないものだと噛み締めれば、美咲と出逢う前にできた心の孤独の痛みは、光がジワリジワリと溶け込んでいって、孤独の痛みを温かな光に変化させ残してゆく。

そして美咲から受けた光が、私の心の奥底から溢れ出す。


何とも不思議な感覚・・・。


私の五感が、美咲の声、瞳、香、体温、鼓動、全てを感じている。


身体中、美咲が欲しいと叫び声を上げる。


こんな熱い自分がいた事を気付かせてくれたのは、全て美咲のおかげ。

美咲が居なければ、こんな気持ちに気付かずに、一生を終えていたことでしょう。


「美咲と出逢わなかったら、本当の自分を気付かずにいたのかもしれないと、考えていたのですよ。私の痛みも何もかも、取り払ってくれる貴女は、手放せないと・・・、考えていたのですよ。」


腕の中で眠る、私の愛しい、愛しい貴女・・。






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