道化の国
救出
「美咲、瞳を閉じて、絶対開けないでください」
「センリ!」
センリは怒りのこもる声色で静かに話し、美咲はセンリの言う通りに固く瞳を閉じた。
鞭に引き寄せられる男は、声も出せず顔を赤くさせその場に倒れこんだ。殺気立つセンリは倒れた男の頭を踏みつけ、尚も鞭を引き首に食い込ませる。
不意に現れたセンリに、呆気に取られる男達。
大きく痙攣しながら男はもがき、伸ばしていた手が力尽きたように地に落ちた。
その瞬間、まるで波間を飛ぶ千鳥のように煌く刃が宙を踊る。
一瞬にして、周りにいた男達の身体は切り刻まれていた。
側で見ていたセンリは目を細め、白露の剣舞を見る。
血飛沫舞う中、細身の刀身が銀色の輝きをみせ、白露は細く一息ついて花月に視線を向けた。
「白露、遅い」
「迎えに来てもらっておいて、その言い草はなんだ。礼の一つも言えないのか?そうか、また尻を叩かれたいんだな。よしわかった。帰ったら、きっちり仕置きしてやるから覚悟しろ」
白露はスラリとした刃についた血糊を振り払い、鞘に静かに収めた。
いまだ絶えない男達の血煙を見て、花月は一言呟く。
「馬鹿な奴等」
「ブツブツ言ってないで、行くぞ」
緊縛された花月を起こし、縄を解く。
横たわりながら固く瞼を閉じる美咲の側に行き、センリは優しく抱き上げた。
「美咲、もう少し瞳を閉じていてくださいね。今縄を解いてあげますから」
「うん……」
解き放たれた美咲はセンリに抱きかかえられ、その場を後にした。
「美咲、もう瞳を開けても良いですよ」
閉じていた瞳をゆっくりと開ければ、目を細めてフワリと微笑むセンリがいて。
「心配しましたよ、美咲。大丈夫ですか?」
「うん……、ありがとう。花月が私の事庇ってくれて……、だから大丈夫だった。ね、もう大丈夫だから下ろして?」
少し残念そうにしながらもセンリは美咲の要求を飲み、代りとばかりに指先を絡め合わせてピッタリとくっつきながら歩き始めた。
側を歩いていた花月はバツが悪そうに小さく呟く。
「わたくしの勝手で美咲を巻き込んでしまったんだ。当然の事をしたまでだ」
「そうだ、お前が悪い。俺の言う事を聞かないで、俺を謀ったんだからな。この代償は大きいぞ」
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