道化の国
脱走1
センリのステージが終わると、花月が喉が乾いたと口煩く言い始めた。
「白露と話しててセンリのステージ殆ど見れなかったし、おかげで喉が乾いた。何か飲みたいぞ」
「わかった、わかったから煩くするな、他の客に迷惑がかかる。……俺が居ない間、絶対に此処を動くんじゃないぞ、わかったな花月」
「わかってるってば!」
面白くなさそうにする花月は、頬を膨らまし足をバタつかせた。
「美咲、すまないが花月を頼む。すぐ戻るから」
「うん、わかった」
花月が気がかりな白露は後ろ髪引かれる思いをしながらも、席を立った。
白露の後姿を見やる花月はバタつかせる足を止め、徐に席を立つ。
「花月?」
「美咲、わたくしはちょっと出かけてくる。心配するな、すぐ戻る」
「え、駄目だよ、白露が動くなって……、えーッ!?」
花月は白露の言いつけを守ろうとする美咲の腕を引っ張り、一目散にテントの出口へと走って行った。
「なんなら美咲も一緒だ。白露に気付かれる前に、此処から脱出するぞ!」
「白露に、怒られ、る、よ……、花月……苦し、い……」
花月は着物の裾を乱す事無く、素早く走る。
洋服にも関わらず美咲は花月のスピードについて行けず、息が途切れ途切れに話す。
「体力無さ過ぎだぞ美咲、もう少し鍛えないと、いざと言うときセンリから逃げられないぞ」
テントからだいぶ離れたのを確認し、花月は走る足を止めて美咲の腕を離した。
「え……、別に……センリから、逃げる、なんて事……はぁはぁ、しなくても、良いもの……、はぁ、苦しかった……」
「ふーん、そうなのか?わたくしは白露に四六時中監視されているようなモノだから、たまに一人で逃げ出したくなるけどな」
「白露は心配なんだよ、花月に何かあっては大変だって思ってるから……」
花月は次期当主だから……と言う台詞を言いそうになるが、美咲はそれを飲み込んだ。
花月はそう言われるのも嫌なのではないかと思ったから。
抑圧された生活を強いられているのは、花月の行動や台詞の端々からわかっていたし、なにしろ白露を見ていればわかるから。
多少花月も悪い所があるから白露に怒られはするものの、次期当主と言う重責に息苦しさを感じるから、一人になりたいと思うのではないかと考えていた。
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