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道化の国
サーカス4


剣を抜き始める女性は全部抜き終わると南京錠を外しにかかり、箱を開けた。


「マスカーレイドが居ない……?」

「脱出マジックだからな。さて、今回は何処から出てくるやら」


ハラハラとした美咲はステージから、視線をあちらこちらに向ける。
一体何処から出てくるのか、マスカーレイドは本当に無事なのかと、心配しながら見ていると。


「美咲も来てたんだね」


後方からマスカーレイドの声が聞こえ、振り向けばマスカーレイドがニヤリと笑って立っていた。


「マスカーレイド!!無事だったんだね!」

「まぁね、こう見えてもマジシャンの端くれですから、これくらいは余裕だよ」


マスカーレイドは視線を花月に落とすと、顔を掌で覆っている姿があった。
少し思案するように人差し指を口元に当て、そして何かを思いついたのかすぐに口角がゆっくりと上がった。

後ろから手を伸ばし、花月の肩を指先で突いた。
塞がれた耳をそのままに、瞳を覆い隠す掌を取ってゆっくりと振り返った。


「やぁ花月」

「いやややあぁぁぁ!!マスカーレイド!お前は早くステージに戻れ!!変態が感染するー!やだーっ!」


顔を真っ赤にさせる花月は、白露を盾にしマスカーレイドを遠ざけようとする。


「マスカーレイド、悪ふざけも大概にしてくれ。花月が喧しい」

「はいはい、俺の顔見ただけでこんなに反応する娘いないよ。本当新鮮で面白い玩具だな」

「一国の姫を相手に余裕なお前の方が、俺は面白いけどな」


顔を紅くしてギャーギャーと喚く花月を尻目に、白露とマスカーレイドは含むような笑いをしていた。

ほどなくして、マスカーレイドはステージに戻り、脱出マジックが上手くいった事で拍手を受けていた。


「あんな奴さえいなければ、このサーカスだってもっと楽しめるのに」


ブツブツと文句を零す花月は本当にマスカーレイドが苦手なようで、美咲にも手に取るようにわかった。
そんな花月を宥めようともせず、白露はステージに視線を向けている。


「あっ!美咲、ほらセンリが出て来た!」


ぼんやりとしていた美咲は花月の声に反応し、咄嗟にステージに顔を向けた。

タキシードに、シルクハットをキッチリと被るセンリがステージに凛として立っている。
いつもと違うセンリに、美咲は言葉をなくしてしまう。

鞭を片手に獅子を二頭従え、センリは涼しげな表情で獣を操る。


「センリもなー、黙っていれば良い男なのに……。性格は白露と一緒で性質が悪い、センリの血は絶対凍ってるぞ」

「どうして?センリは優しいよ?」


センリへの悪態を不思議そうに思う美咲は花月を見る。


「お前が悪さをしなければ、俺だって優しいのだがな」

「白露は口煩くしなければ、わたくしだって何もしない」

「だから、お前が俺の言う事を聞かないから……」


二人は終わりそうもない言い合いをし始め、美咲は苦笑いをしながらステージに視線を戻した。

美咲は獅子を扱うセンリをウットリと眺める。
ステージに立つセンリはいつもと雰囲気が違っているせいか、普段見た事もないような表情が時折見えた。

始めて見るセンリのステージに、美咲は胸をときめかせる。

時折響かせる、鞭が地を叩く乾いた音、空気を切るように鳴る音。
全てがセンリからもたらされた物だと思うと、美咲はステージから目が離せなくなる。

シルクハットの下から覗く瞳が美咲の視線と絡まるとセンリの瞳が細められ、唇が薄く開き、何か言っている。
美咲はセンリの唇の動きを真似、声に出してみる。


「あ……い、して……いま……す……」


思わず紅くなる顔を美咲は掌で隠すと、センリは満足そうに口角を上げ微笑む。
センリは緩む顔を冷水でも浴びせたように引き締まった表情に戻した。

高鳴る心臓に美咲は胸が苦しくなり、センリを想う。
離れる前に言われたセンリの言葉が、頭の中を木霊する。


『美咲、一瞬たりとも私を忘れないでください。いつも思い出して、指の感触、唇の温度、私と言う存在を……。私をいつも貴女の側に感じていて……』


離れた場所に居ても、美咲はセンリの愛情を深く感じ、鼓動が早くなる。




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あきゅろす。
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