道化の国
サーカス3
煌々と照らし出されるステージでは、天井から長い布がユラユラとぶら下がっているが人が出て来ない。
「いつになったら始まるのかな?」
「え?美咲、もう始まっているぞ」
「……もしかして。美咲に縁のない奴だから見えないのか?」
眉をしかめながら白露達は美咲を覗き見る。
「こんな所に来てまで……残念」
大きくため息をつき肩を落とす美咲に、花月は慰めるように背中を叩いた。
「でも一番見たいのはセンリなんだろ?もう少ししたらセンリが出てくるぞ。それまでの我慢だ」
花月は拳を握って、力強く美咲を励ました。
「うん、あ、そう言えば、マリカも出るのかな?」
「ん?マリカ?マリカも出るぞ。知り合いか?」
「そう、マリカとマスカーレイドとユーマ……、花月?」
花月の身体がフルフルと震え、大きく目を見開いている。
どうしたのかと、美咲は白露に視線を向けた。
「花月はマスカーレイドが苦手でな。美咲は気にしなくて良い」
「苦手なんじゃない!嫌いなだけだ!あんな猥褻物、思い出すだけでも……」
「そ、なんだ」
苦笑いを浮かべ、詳しい話を聞けない美咲は何とかやり過ごそうとしたその時。
「話をしてたらマスカーレイドが登場だ。」
「ぎゃッ!!マスカーレイドなんか見たら変態になるー!やだー!」
花月は瞳を手で押さえ、頭をブンブン振る。
面倒くさそうに、白露は花月の耳を塞ぎ、大きくため息をつく。
マスカーレイドはイリュージョンを始めるらしく、細身の美しい女性と共にステージに立つ。
女性は助手なのか、マスカーレイドの身体を縄でグルグルと巻き始め、あちらこちらに南京錠をかけた。
縦長の人一人が入るほどの箱に、マスカーレイドが入り、また錠を二つ三つとかける。
女性は車輪の付いたその箱をクルクルと回し、仕掛けのない様子をアピールする。
動きを止めると女性は徐に大きな剣をいくつも持ち出し、本物の刃であると証明するかのように金音をたてて見せた。
剣を構え、箱に目掛けて一気に剣を貫く。また一本、また一本と。
箱は無残にも、あっという間に串刺しにされた。
違う意味で静かになる花月はともかく、所々から漏れるまばらな歓声を聞き、美咲は息を呑む。
「マスカーレイド……大丈夫なの?」
「あれは普段飄々としてるが、腕は確かなマジシャンだからな」
白露はいまだ花月の耳を押さえながら、美咲に説明してくれた。
「知らなかった……、そうなんだ」
美咲は視線をマスカーレイドから外さず、事の成り行きを見守った。
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