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道化の国
サーカス2


テントの前にはピエロが一人。
おどけた様なメイクで、表情は全くわからない。


「いらっしゃい、ようこそ。おやおや、これは倭の姫君。また騒ぎを起こされないようにしてくださいねぇ。我々のサーカス団にケチがつきますから」

「煩いぞピエロ」


不貞腐れた顔の花月に、驚いた表情を見せる美咲が覗き込んだ。


「……姫君?」

「センリは言わなかったのか?花月は倭の国の時期当主だ。だが今まで通り普通に接してくれ、堅苦しいのを嫌がるから」


表情を和らげる白露は、花月を真っ直ぐに見る。

美咲は姫と聞いて驚いたが、驕る様子も、それを鼻にかける様子も見せない花月。
自分の方が畏まってはかえって失礼に感じるほどで、白露の言う事に頷いた。

自分と同じくらいの年齢に見える花月が少し威圧的に感じるのはそのせいなのかと、美咲は妙に納得できた。


「ピエロめ……余計な事を。後で、ぶん殴ってやる」

「花月、着物姿ではしたない事をするなよ。後、言葉遣い。いい加減直せ」


白露はため息混じりで、にやけたピエロを横目にテントの中へ二人を促す。
ピエロに見送られ、三人はテントの中へと進んだ。


「ごゆっくりどうぞ……」


中に入れば外から見たテントとは違い、とても広い空間が広がっていた。


「え、え?ええ?」


口をパクパクさせながら、美咲はテントの入り口と中を指差す。


「驚いただろ?ハリボテのテントの中と外では空間が違うんだ」

「へぇ……凄い……」


目の前の光景は、すり鉢状になった客席の真ん中。ステージ部分にはたくさんのランプが飾られ、熱気で蒸し暑くなっている。
薄暗い階段をゆっくりと下り、ステージに向かって話をしながら花月は進む。

所々に人はいるものの、客席はまばらだ。


「此処だ、美咲座るぞ」


特等席とも言える様な、他の席と違う扱いの場所に腰を下ろす花月に少し動揺する。


「椅子の種類も違うし、こんな場所に勝手に座って良いの?」

「わたくし達の席だ、何の気兼ねもないぞ」


慣れた風に花月は椅子に腰を下ろし、隣に白露も腰を落ち着けた。
花月に促され美咲も座り、中央のステージを見ていると。


「始まるぞ美咲。さっきのピエロが出てきた」


花月がそう言って、指差す方向には。
ピエロがステージの真ん中に立ち、大きく身体を折り曲げて挨拶をしていた。


「ようこそ、我が道化の国が誇るサーカスへ」


ゆっくりとしたピエロの動きに惑わされるように、美咲の目は釘付けになっていた。






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