「美咲、暫く寂しい思いをさせてしまうお詫びに、デートしませんか?」 「良いの?行きたい!」 思いがけないデートの提案に、足取りを軽くしながら颯爽と仕度を整えた。美咲は弾んだ気持ちを隠さず、嬉しそうにセンリに抱きついた。 それを良しとするセンリは美咲に目を細め、腰を抱いた。 「では行きましょうか」 二人は寄り添い、切り裂かれた漆黒の空間へと溶け込んだ。 フィールドを出て、美咲の瞳に真っ先に飛び込んだ者。 真っ直ぐな黒髪を腰まで流し、濡羽色地に小桜が降り注がれた振袖を着た少女。 白い肌は陶器の様で、真紅の唇が映えている。表情は大人びていて、少し吊り上がっている大きな瞳がこちらを見ている。 着物姿の女性を見るのが初めてだからなのか、妙な威圧感を感じた。 「あ、センリみっけ」 少女がセンリの名を呼び、美咲がセンリを見れば眉間にシワを寄せていている。 美咲は少女の外見とは不釣合いな、くだけた言葉遣いに少し驚いた。 「花月、言葉遣いが悪い」 少女の側には、濃藍色の髪を肩まで伸ばした青年。 白緑の着物に、赤墨の袴。 スッと背筋を伸ばしたその腰には、一本の刀を差している。 少女は青年に花月と呼ばれていたのに気付き、美咲はマリカ達が言っていた人達だとわかった。 そしてマスカーレイドに腰巾着と言われている白露と言う人物は、その青年の事だろうと思った。 「白露は一々煩い」 「――花月」 白露は押し黙ったまま、花月を見下ろす。 見上げる花月も引き下がらない様子で、眉をしかめている。 表情のなかった白露は、急に口の端を吊り上げながら早急に話し始めた。 「花月、そんな事を言ってて怒られるのはお前だろ、父上に何度尻を叩かれれば気が済むんだ。叩かれたくて、俺の言う事が聞かないのか。そうなのか?そうなんだな。よし、わかった。なら、俺が今すぐにでも尻を叩いてやる。さぁ来い」 「ギャー!違うー!わたくしにそんな趣味はなーい!」 「また言葉遣いが悪い。何度言えばわかる。悲鳴くらい可愛らしく出せないのか?」 逃げようとする花月の腕を白露は無遠慮に掴み、力任せに引き寄せた。 着物が着崩れんばかりに、花月は手足をばたつかせ暴れる。傍から見れば、恥も外聞もないと言ったところだ。 「ギャー!イヤー!ちょっとセンリ、呑気に見てないで助けろ!」 白露は片膝を立てると花月をくの字に折り曲げ、そこに乗せた。暴れる花月に「諦めろ」と一言告げると、悔しそうに唇を噛み締めて僅かに動きにキレが無くなった。 「私がなぜ助けなければならないのですか。しっかり白露に躾てもらえば、少しは利口になるのではないですか?」 「……クソッ、どいつもこいつも……」 センリは涼しげな笑みを花月に向けた。 対照的な花月は、センリはもちろんだが、白露に対しても怒りをぶつけたくて仕方のない様子だ。 そもそも叱られてしまうような事をしたと自分でも知っているからこそ、白露に宣告された「諦めろ」の言葉。 これ以上白露を怒らせてしまいでもしたら、倭の国に強制送還されかねない。 だからこそ甘んじて受け入れるわけではないが、到底納得できないまま白露の仕置きを受け入れせざる得ない状況に、ただただ歯痒さを感じなが唯一の当たり所であるセンリを睨みつけた。 「センリの鬼!」 |