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道化の国
招待状2




「お熱いところ悪いんだけど」


二人が抱き合っている場面を覗き見るように、マリカが扉の前に立っていた。
悪いと言いながらも、口角を見る限りとても愉快そうだ。


「マリカ!どうしたの?」


突然の来客にセンリからすぐに離れ、美咲はマリカに駆け寄った。
マリカに気付いていたセンリは、美咲の予期する行動を寂しく思い。


「サーカス開催の事で、ちょっとね」

「はぁい、美咲」


マリカの陰から顔出したのは、マスカーレイド。
手をひらめかせながら、弾んだ声を出している。


「マスカーレイドもいらっしゃい」


美咲が柔らかく微笑めば、鋭い目つきのセンリが冷笑している。


「いらっしゃい、マスカーレイド」

「おいおいセンリ、声は歓迎してないよ」


肩を竦めながら、マスカーレイドの口元が緩む。
次々現れる来客に美咲は楽しくて仕方ない様子で、お茶の準備やお菓子はどれにしようなどと、一人でキッチンに向かった。


「で、サーカス開催の事ですが、先程手紙を見ました」


センリは机に置いた封書を持ち、マリカ達に見せた。


「それなんだけど、今回は倭の国の人達が見に来るそうよ」

「倭の国……。あの方々も来るでしょうか」


苦笑いのマリカに、センリはため息を漏らす。


「来るでしょー、じゃじゃ馬と腰巾着」


マスカーレイドの台詞に、センリは口元を隠すようにして遠くを見た。
しかしマスカーレイドはとても楽しそうにしていて、美咲は何の事かわからずセンリに問うた。


「倭の国とか、じゃじゃ馬とか、腰巾着って?」

「あぁ、美咲は知りませんでしたね。倭の国とは、この国と同盟を結んでいる国でして。そこの住人に知り合いがいるんです。花月(かづき)と、白露(はくろ)と言う方々なんですが……」


センリは瞳を少し伏せ、眉間にシワを寄せている。


「花月って言うのが、じゃじゃ馬でさ。いつも来ては、騒ぎを起こすもんだから、ほとほと困ってるんだよね。黙っていれば可愛いのに」


ニヤつくマスカーレイドに、美咲は不思議そうな顔をする。
そんなマスカーレイドの頭をマリカは軽い音を立てて叩くと、眉を吊り上げた。


「顔が気持ち悪いわよマスカーレイド。そもそも、あんたが花月を追い掛け回すから、癇癪起こすのよ!白露にいつか切られるわよ」

「つい苛めたくなって。花月をネタに白露をからかうのも面白いんだって」


マリカ達のやり取りを見ていたセンリは前髪を掻き上げると、うんざりした様子で零す。


「……では、また騒ぎが起こって、私達は巻き込まれて……って事ですか」

「そうね、きっとそうなるわね」

「ね、騒ぎって?」


一人話しの見えない美咲は、センリがそれほど嫌がる“騒ぎ”が何なのか気になった。


「んー……、花月の迷子はいつもの事だし、誘拐も日常茶飯事。いつだったか酔っ払い相手に喧嘩ふっかけていた事もあったなー、10人くらいの集団に」

「どんな人達なの……?」


軽く冷や汗が出る様なマスカーレイドの話に不安を覚えた美咲は、それを払拭するようにセンリを見た。
視線が合わさるとセンリの疲れた様な表情が一変し、美咲に安心をもたらすような笑顔を向けた。


「美咲は気にしなくても良いのですよ、あまり関わらないようにしましょうね。それに一番厄介なのは花月です。白露はまだ、まともですから」

「う、うん。わかった」


表情とは裏腹の言葉にさほど安心感を得られず、美咲は苦笑いを浮かべた。




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