「お熱いところ悪いんだけど」 二人が抱き合っている場面を覗き見るように、マリカが扉の前に立っていた。 悪いと言いながらも、口角を見る限りとても愉快そうだ。 「マリカ!どうしたの?」 突然の来客にセンリからすぐに離れ、美咲はマリカに駆け寄った。 マリカに気付いていたセンリは、美咲の予期する行動を寂しく思い。 「サーカス開催の事で、ちょっとね」 「はぁい、美咲」 マリカの陰から顔出したのは、マスカーレイド。 手をひらめかせながら、弾んだ声を出している。 「マスカーレイドもいらっしゃい」 美咲が柔らかく微笑めば、鋭い目つきのセンリが冷笑している。 「いらっしゃい、マスカーレイド」 「おいおいセンリ、声は歓迎してないよ」 肩を竦めながら、マスカーレイドの口元が緩む。 次々現れる来客に美咲は楽しくて仕方ない様子で、お茶の準備やお菓子はどれにしようなどと、一人でキッチンに向かった。 「で、サーカス開催の事ですが、先程手紙を見ました」 センリは机に置いた封書を持ち、マリカ達に見せた。 「それなんだけど、今回は倭の国の人達が見に来るそうよ」 「倭の国……。あの方々も来るでしょうか」 苦笑いのマリカに、センリはため息を漏らす。 「来るでしょー、じゃじゃ馬と腰巾着」 マスカーレイドの台詞に、センリは口元を隠すようにして遠くを見た。 しかしマスカーレイドはとても楽しそうにしていて、美咲は何の事かわからずセンリに問うた。 「倭の国とか、じゃじゃ馬とか、腰巾着って?」 「あぁ、美咲は知りませんでしたね。倭の国とは、この国と同盟を結んでいる国でして。そこの住人に知り合いがいるんです。花月(かづき)と、白露(はくろ)と言う方々なんですが……」 センリは瞳を少し伏せ、眉間にシワを寄せている。 「花月って言うのが、じゃじゃ馬でさ。いつも来ては、騒ぎを起こすもんだから、ほとほと困ってるんだよね。黙っていれば可愛いのに」 ニヤつくマスカーレイドに、美咲は不思議そうな顔をする。 そんなマスカーレイドの頭をマリカは軽い音を立てて叩くと、眉を吊り上げた。 「顔が気持ち悪いわよマスカーレイド。そもそも、あんたが花月を追い掛け回すから、癇癪起こすのよ!白露にいつか切られるわよ」 「つい苛めたくなって。花月をネタに白露をからかうのも面白いんだって」 マリカ達のやり取りを見ていたセンリは前髪を掻き上げると、うんざりした様子で零す。 「……では、また騒ぎが起こって、私達は巻き込まれて……って事ですか」 「そうね、きっとそうなるわね」 「ね、騒ぎって?」 一人話しの見えない美咲は、センリがそれほど嫌がる“騒ぎ”が何なのか気になった。 「んー……、花月の迷子はいつもの事だし、誘拐も日常茶飯事。いつだったか酔っ払い相手に喧嘩ふっかけていた事もあったなー、10人くらいの集団に」 「どんな人達なの……?」 軽く冷や汗が出る様なマスカーレイドの話に不安を覚えた美咲は、それを払拭するようにセンリを見た。 視線が合わさるとセンリの疲れた様な表情が一変し、美咲に安心をもたらすような笑顔を向けた。 「美咲は気にしなくても良いのですよ、あまり関わらないようにしましょうね。それに一番厄介なのは花月です。白露はまだ、まともですから」 「う、うん。わかった」 表情とは裏腹の言葉にさほど安心感を得られず、美咲は苦笑いを浮かべた。 |