「私はマリカを信用していますよ」
「あら、ありがとう」
センリがマリカに気を取られていると、隣に居たはずの美咲がいない事に驚き、焦り振り返った。
店の中を見渡せば、美咲は人だかりの中心に囲まれている。
慌ててその中に飛び込むと、安心したように美咲が顔を綻ばす。
「センリ」
「勝手に居なくなっては困りますよ」
困り顔のセンリに美咲は小さく謝る。
謝る姿まで可愛くて堪らないセンリは、腰に手を回して身体を寄せた。
「セ……センリ、人が一杯……だから」
「だから……何ですか?」
いつもと違うセンリの言い捨てるような喋り方に困惑する美咲。
周りにはたくさんの人がいる。そのような場所での突然のスキンシップに、恥ずかしさと戸惑いで顔を俯かせた。
「……恥かしいでしょ?」
俯きながらセンリの胸を押して腕から逃れようとすると、センリの腕の力が弱まる。
するとセンリの顔が近付き、不意に唇を重ねられる。
驚く美咲の前には満面の笑みのセンリが居て、美咲は何も言えなくなってしまった。
「虫除けをしておかなくては、いけませんから。……念の為に」
この国で虫など見た事のない美咲は、恥ずかしそうにしながら首を傾げた。
「虫?」
「えぇ、この様な害虫です」
センリが身体を避けると、後ろからマスカーレイドが口元を緩めて立っていた。
「やぁ美咲」
「こんにちは、マスカーレイド」
気心が知れた人に会えた。知らない人が多い中では、それだけでも美咲の安心材料となっている。
微笑む美咲は、その場に居た人達を魅了するものだった。