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甥っ子めぐたん
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でも当たり前にゆっくりブレックファーストを楽しむ時間なんてなくて、ボロアパートの階段を駆け降りた。そんでチャリの後部に軽い体を乗っけてただ今爆走中だ。

「秀明さん大丈夫ですかっ?!おれのこと降ろして会社に行ってくださいっ」
「んなこと出来っかよ…ハァハァ」
「お仕事遅れちゃいますよっ」
「ここでお前降ろしたらお前が学校遅刻すんじゃねぇかっ!疲れっから黙って掴まってろ…」

この押し問答を5回したころで学生服姿の少年少女がチラついてきた。
あと少しだと自分を励ました時に小高い丘が見えた。その学生たちもみんなその上り坂へ吸い込まれていく。

「もしかして、めぐみの学校ってこの坂の上?」
「はい…」

なんだってこんな坂の上に学校建てるんだよ
横目に映る十代の体力が心から羨ましい

「アシスト自転車買うかな…」
「ここからなら走ってすぐなんでもう大丈夫ですっ。秀明さんもすぐ会社向かってください」

「いや、ここまで来たら俺は上るぞ。2ケツでもあのスカしたガキには負けねぇ」

金髪腰パンでダサいパンツ丸出しのチビに負けてなるものか。生意気な中学生に触発されてペダルを踏み込む。

「あの、2人乗りは禁止なんです…すみません」
「あ、そっか」

めぐみの申し訳なさそうな様子に黙ってカゴの学生鞄を渡す。
アラサーリーマンと美少年中学生のコラボに視線を感じたけど無視してやった。めぐみが友だちに聞かれたらなんて答えるかは気になったけど。

「送るとか言っておいてチャリでごめんな。車持ってないんだわ」
「明日からはバスか自分の自転車で行くから大丈夫ですよ」
「うん、悪りぃな」

めぐみの背中を行く学生たちのスピードが増した。チャイムの音が近づいてる前兆だろう。

「じゃあ気をつけて行ってこい」
「はい、秀明さんも」

昨日から繰り返される礼儀正しい会話。歳と立場を考えれば当然だけど、そこに寂しさを覚えるのはいけないことなのか。

俺がこんな風に思っているように、めぐみにだって言いたいことはあるはずだっ

「めぐみ!!お前昨日から行儀良すぎんだよっ。なんか嫌なこととか我が侭あったらたまには言ってこい」
「あ……じゃあ」

やっぱあんのかよっ

「携帯番号教えてください」

はにかむ黒目にやられて速攻で携帯を取り出した。こんな場所でアドレス交換なんて怪しいことこの上ない。

でも可愛い甥っ子の我が侭は今叶えてあげなければ
それが自分の我が侭と合致していたなら尚のこと

そして“行ってきます”の前に俺からも一言

「なるべく敬語は使わないように」

見知らぬシルバーの携帯と仲良しになって
アドレスがひとつ増えて

“行ってきます”を2人で交わしたら

“お帰りなさい”の声はきっと

白いご飯とフリフリエプロンが彩ってくれるはず



09/11/24

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