甥っ子めぐたん 6 でも当たり前にゆっくりブレックファーストを楽しむ時間なんてなくて、ボロアパートの階段を駆け降りた。そんでチャリの後部に軽い体を乗っけてただ今爆走中だ。 「秀明さん大丈夫ですかっ?!おれのこと降ろして会社に行ってくださいっ」 「んなこと出来っかよ…ハァハァ」 「お仕事遅れちゃいますよっ」 「ここでお前降ろしたらお前が学校遅刻すんじゃねぇかっ!疲れっから黙って掴まってろ…」 この押し問答を5回したころで学生服姿の少年少女がチラついてきた。 あと少しだと自分を励ました時に小高い丘が見えた。その学生たちもみんなその上り坂へ吸い込まれていく。 「もしかして、めぐみの学校ってこの坂の上?」 「はい…」 なんだってこんな坂の上に学校建てるんだよ 横目に映る十代の体力が心から羨ましい 「アシスト自転車買うかな…」 「ここからなら走ってすぐなんでもう大丈夫ですっ。秀明さんもすぐ会社向かってください」 「いや、ここまで来たら俺は上るぞ。2ケツでもあのスカしたガキには負けねぇ」 金髪腰パンでダサいパンツ丸出しのチビに負けてなるものか。生意気な中学生に触発されてペダルを踏み込む。 「あの、2人乗りは禁止なんです…すみません」 「あ、そっか」 めぐみの申し訳なさそうな様子に黙ってカゴの学生鞄を渡す。 アラサーリーマンと美少年中学生のコラボに視線を感じたけど無視してやった。めぐみが友だちに聞かれたらなんて答えるかは気になったけど。 「送るとか言っておいてチャリでごめんな。車持ってないんだわ」 「明日からはバスか自分の自転車で行くから大丈夫ですよ」 「うん、悪りぃな」 めぐみの背中を行く学生たちのスピードが増した。チャイムの音が近づいてる前兆だろう。 「じゃあ気をつけて行ってこい」 「はい、秀明さんも」 昨日から繰り返される礼儀正しい会話。歳と立場を考えれば当然だけど、そこに寂しさを覚えるのはいけないことなのか。 俺がこんな風に思っているように、めぐみにだって言いたいことはあるはずだっ 「めぐみ!!お前昨日から行儀良すぎんだよっ。なんか嫌なこととか我が侭あったらたまには言ってこい」 「あ……じゃあ」 やっぱあんのかよっ 「携帯番号教えてください」 はにかむ黒目にやられて速攻で携帯を取り出した。こんな場所でアドレス交換なんて怪しいことこの上ない。 でも可愛い甥っ子の我が侭は今叶えてあげなければ それが自分の我が侭と合致していたなら尚のこと そして“行ってきます”の前に俺からも一言 「なるべく敬語は使わないように」 見知らぬシルバーの携帯と仲良しになって アドレスがひとつ増えて “行ってきます”を2人で交わしたら “お帰りなさい”の声はきっと 白いご飯とフリフリエプロンが彩ってくれるはず 09/11/24 [*前へ] [戻る] |