甥っ子めぐたん
8
人工で作り出された風が喚くわめく。
「咳はどうだ?もう出ないか」
「え、なんですか?」
「咳だよせき!風邪続くようなら病院行かなきゃだろ」
ドライヤーの風音に負けないように声を張り上げた。自分の耳元で大口を開ける俺が可笑しいのか、さっきからめぐみはクスクス笑ってばかりだ。
「秀明さんって過保護ですよね」
違う
どうやら過保護な叔父が面白可笑しかったらしい
「どこが過保護だって言うんだよ」
「だって風邪くらいどうってことないのに。他にも前からいろいろ心配してくれますし」
「そりゃお前、」
可憐で儚くって
夢見る甘いマスクな美少年な甥っ子だから
他ならぬめぐみだからだろうが
左手で髪をすきながらじっくり考えた。風呂上がりのめぐみは一層一等一番に可愛い。
綿のパジャマに薄手のカーディガンが堪らなく似合う。そんな子に過剰な愛情とか注いじゃっても、誰も仕方ないと諦めるはず。
だから俺は開き直ってめぐみの頬を摘まんだ。餅のように白いのにマシュマロみたく柔らかい。
髪から頬に移った左手のおいたに、驚いためぐみ。背中を預けた俺を振り向いた。
そうして俺は言うんだ
「お前が可愛いからだろ」
「ぇ」
「お前が可愛いくってヤバいから心配なんだよ。口うるさくって悪かったな」
「いえ‥う、嬉しいです」
両頬を手のひらで包んで、かき消されそうな声でめぐみが告げた。マシュマロ色だった肌が今では桜色だ。
モチ肌なのは変わらないから、まさに桜餅みたいに色付いてしまった。口付けて被りついてしまいたい衝動をひた隠し、ドライヤーのスイッチを切る。
しんと静まる空気が、心なしか砂糖みたいな甘さをはらんでいた。舌で転がせば途端に溶けて消えてしまいそうな甘さを、めぐみが言葉で追いかけた。
「やっぱり秀明さんは優しくって誠実ですね」
「それはさっきも聞いたぞ。そんでもって我が強い照れ屋ってオチだろ?」
「ふふ、それに心配症です」
「まだ言うかこの口はっ」
いひゃいれす
痛くない
のびひゃいまふ
伸びません
桜餅なみの両頬を摘まんではムニムニ。この押し問答をムニムニ繰り返しては薄い背中と胸を合わせた。
「ほれ、叔父さんをからかうとこうなっちまうぞ」
「ひぁッ!くすぐったいですよぉ」
「擽ったくしてんだよ。ん?首筋が弱いんじゃねぇの」
調子にのって肩口で遊ばせていた手を、顎にかける。ヒゲとゆう単語とは無縁なオトガイが踊る指先に逃げまどう。
「いぃぃ〜‥もう!や、くすぐったッ」
「ほれほれ」
「ンッ!秀明さん‥ぁ」
「!!」
やば
調子のり過ぎた
どうにか理性を呼び戻し、今しがたの愚行を顧みる。首筋を往き来していた右手をしまいこんで、後ろ抱きにした体のつむじに詫びた。
「わり‥また俺調子のってたわ」
「ン、今日は秀明さん謝ってばかりですね」
「そうだな。出来の悪い叔父で申し訳ねぇよ」
お前が可愛いから
お前が愛しいから
つい、ね
そんな言い訳が頭に浮かぶ。まったく都合のいい免罪付だ。
俺の擽り攻撃が止んで、めぐみの肩の力が抜けた。ふにゃりと笑う花のかんばせが
「‥でも格好いいです。優しくって誠実で、照れ屋さんで心配症の秀明さん」
あんまりにも綺麗だから
「おれは好きです」
この手で手折ってしまいたくなる
ギュッと両腕を回して小さな体を引き寄せた。骨組みさえ分かりそうな、繊細な造りの肢体が手に優しい。
胡座の膝に移った軽量級の子どもが、俺の表情を伺い上向く。その顔に劣情が弄ばれないよう、必死で耐えた。
「‥そんなこと言うと、痛いめに会うぞ」
「言ったはずですよ。"待ってます"って…」
なにを?
何を待っているか俺には解けないけど
今はただ
ただただキスがしたかった
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