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甥っ子めぐたん
9


「って、また怒鳴っちまってごめん!なんつーかそのっ…」
「いえ‥大丈夫、です…」
「そっか」

き、気まずい
心底気まずい

その証拠に、ひそめた眉とか紅潮する頬だとか。全身で羞恥を訴えるめぐみだけど俺だって死ぬほど恥ずかしいんだよ。

息苦しさに耐えかねて居心地悪そうに仰向けで寝っ転がってるめぐみを引っ張り起こす。そんで居住まいを正す俺。迷子気味なめぐみの視線は布団の皺を数えてるのだろうか。

「あ、あのな‥一応聞くけどどっから起きてたんだ」
「えっ」
「いや。だって起きてたんだろ?」
「はぁ…い、いつの間にか床にいたと思ったらベッドで寝ていて。それで秀明さんにお礼を言わなきゃって思ったんですっ。そしたら」

めぐみがギュッと太ももの上で小さく拳を2つつくる。緊張感漂う空気に負けたように、ピンクの上唇が上がったり下がったり。
俺も負けじと唇を真一文字に結んだ。

「ひ、秀明さんが‥その、服を脱がせてくれていて…」

だからそれは誤解なんだ
やましい意思はなかったんだよ

たぶん

「びっくりしてた‥ところでした」
「だよなぁ…」

叔父が自分の服ひん剥いてたら、そりゃびっくりするよな。めぐみの動揺を体言した拳がピクピク波打ってた。
とにかく変態叔父さんの異名を与えられる前に、なんとかして誤解を解きたかった。さ迷う黒目を射止めるために薄い肩を掴む。

「めぐみっ!」
「はぃ…ッ」
「別にムラムラしたんでも、結子にあてられたわけでもねぇからな」

実はちょっとムラムラしていたけども!

「ゆいこ?」
「あ…それ元カノな。さっき一緒にいたヤツ」
「彼女さん‥だったんですね」
「元だよもと。今は関係ないしって、んなことはどうでもよくてっ」

意図的に顔の筋肉を引き締める。相手の幼子が睫毛をしばたくのを合図に、結論を突きつけた。

「お前を襲おうとしたわけじゃないからな!」
「はい。分かってますよ」

「…ですよね」

まさに一刀両断。
切れの良い刃物が舌の根を通り過ぎたみたいだ。軽い胸の痛みを安堵のため息で誤魔化して天井を仰ぐ。

よくよく考えれば、叔父が甥っ子に手ぇ出すとか思いつかないよな

考えつくこと事態俺が意識してるってことじゃんか

「彼女さん‥結子さんとは今でも会っているんですか?」
「はぁ?んな頻繁には会わねぇけどなぁ。まぁ仕事ではたまに会うか」
「じゃあ…」

めぐみの小さな拳が胸へ移動して服に皺を刻む。まるでその下の心臓を守るみたいに。

「秀明さんは今恋人いないんですか?」
「いないけど」
「けど‥?」
「いや!いないいないっ。見栄張りたいけど彼女いねぇもん」

なんでか必死こいて主張してみる俺。オーバーなくらいデカイ声がシンとした一室に響いた。

反響する自分の声が耳に届く。その形もない温度もない、周波がめぐみの頬を柔らかいものに変えた。

「ふふっ、よかった」
「何がいいんだよ。ただのモテないサラリーマンだって宣言しただけだぞ」
「それでもいいんですっ」

"よかった"って
"いいんです"って

お前を喜ばせるキーワードが分からねぇよ

細い首を力強く縦に揺らしためぐみ。その左胸を守るように宛てがわれていた両手は、今では綿の枕をなぞっていた。
今日はあまり話せていないから本当はもっと言葉を交わしていたかった。甥っ子の頬を弛ませるキーワードを探ってみたかった。

しかし皮肉にも、その甥っ子の声が眠気を誘発してくれる。ふんわり笑うめぐみの後れ毛を撫でて、2人いっぺんに就寝へ導いた。



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あきゅろす。
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