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甥っ子めぐたん
7


動揺する俺をよそに、依然めぐみは童謡のお姫様スタイルを貫く。起き上がった俺は上半身の高さ分上から問いかけた。
と言うより詰めよった。

「食べられないってそりゃ…俺もなんだ?そんな本当に食っちまおうとはだな」
「?…あの、秀明さん?」
「いやいや、実を言うとちょっとは思ってた。思ってたけども!けどまだイカン、まだマズイってゆう常識もあって…って“まだ”ってなんだ?!」

「……」

一人ツッコミが余計に寂しさを盛り上げる。
冷静さを欠いたアラサーを十代の美少年は持て余し気味だ。ゆっくり起こした半身でなんとか真意を伝える。

「なにか悪いこと言っちゃったみたいですね…大丈夫です。お茶があれば食べられます」
「お茶ぁ?!」
「は、はい。お茶…」

お茶プレイとはなんぞや

“お茶さえあれば”と了承するめぐみ。互いにクエスチョンマーク浮かべて薄暗闇で探り合いだ。

俺の見解が間違ってなければコレ話し食い違ってるよな

“お茶プレイでぼくを食べて”とは言うまい

「水でもぜんぜんです」

水責めもなしだ

フーッと煙草吹かす要領で空気を出す。近距離だから向かいの前髪が揺れたけど、直してやる時ではない。

「めぐみ、お前は何にお茶だか水を必要とすんだ?言ってみ」

ナニではない、何だ

「カレーを食べる時です」
「はぁ?」
「あの…カレーが辛くって。辛口は食べたの初めてだったんでちょっと大変で、でもっ秀明さんが辛口がいいなら大丈夫ですっ!平気ですっ」
「え、いや別に…」

「おれも辛口好きになりますからっ」

前のめりで意気込みを宣言する。その気概と真心に俺的にはすでに努力賞ものだ。
だけどそれを伝える前に突っこんでもいいですか。

「カレー?!カレーって晩飯のだろっ?おまッ、そうゆうのは早く言えよっ」
「大丈夫ですっ!すぐ好きになりますっ」
「バカッそんなん求めてねぇから!あっ、だから麦茶ガバガバ飲んでたのかっ」

いけないことがバレたように慌てためぐみ。両手でシーツを丸めて捏ねている。
麦茶くらい無限大に飲めばいいのに、このたじろぎっぷりは面白い。

「次からは甘口な」
「ダメですっ!秀明さんの好きにしてくださいっ」

こらこら
そんなこと口走るんじゃありません

「じゃあ中辛にすっか。好みが分からないんだから一緒に作ればいいだろ」
「はいっ、頑張って美味しいカレー作りますっ」

めちゃくちゃな破壊力の笑顔に惑わされそう。でも大人の男の腕は、さっき吹き飛ばした前髪を直してやるにとどまってくれた。

時計の針がだいぶ進んでいて、めぐみと同衾する時間が少なくなっていくことを示していた。あたたかい体温と優しい匂いは名残惜しいけどこれでいいんだ。

カレーを作るならエプロンが必要だって前から思っていた

お揃いにはできないけど
一緒に台所に立つのがフリフリエプロンとヨレヨレシャツじゃあちょっとな

明日の脳内買い物リストにエプロンを書き足して目を閉じる。そしたら中辛って言いつつ、めぐみにバレないよう甘口ルーを買う俺が目蓋の裏に浮かんできた。

これでいい
これが理想の“叔父さんと甥っ子”なんだ

まぁお後がよろしいようで



09/12/12

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