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甥っ子めぐたん
4


足の小指を見ると伸ばしっぱなしの爪が欠けていた。見た途端また痛みがぶり返したけど、爪切りで端から順に落としていく。
パチンパチンいわせていると湯気と一緒にめぐみが風呂から出てきた気配。見てやるのは可哀想なので、さり気無く方向転換して難を乗り切る。

パチンッ パチッ

ガサガサ

パチンッ パチッ

ガサゴソ

妙に静かな1ルームに爪切りと絹擦れの音だけが響く。
3日間で覚えた“めぐみは着替えの時はじゃべらない”という教訓。律義に守る義理もないから適当に話しかけた。

「リンスまだあった?」
「ぁ…あと少しです」
「明日買わなきゃなぁ。メーカーとか気にしてんの?」

「いえ、特には…」

照れているんだろう。ガサゴソのテンポが早くなった。

「髪早く乾かせよ」
「はい…あの、」
「ん〜」

右手の小指爪を切り終えたところで、パジャマ姿のめぐみが隣に座った。正座した膝の上でドライヤーが寝転がっている。
ティッシュに元体の一部だった物を散らしながら甥っ子の動作を見守る。細い10指がドライヤーを捧げ持つ。

「あ、あぁあのッ…これ、ドライヤーです」
「確かにドライヤーだな」
「そう…ドライヤーで、だからッその…」

「あ?」

高貴な献上品のごとく捧げられたドライヤー。かれこれ使用して7年、初めてそんな持ち方されたであろうそれを見る。

捧げ持つめぐみは赤い顔して俺の動きをジッと待っている。

あぁもしかして

「髪乾かしてやろうか」
「!」
「あれ、違った?」

びっくり顔が左右にブンブン揺れる。

「お、お願いします」
「そんな畏まるなっての。やってやるからアッチ向いてな」
「はい。嬉しいです」

ほっこり笑顔からドライヤーを受け取って髪を乾かす。指から流れるストレートヘア。
耳やらうなじを触らないよう注意を払って梳いてやる。やってるのに、まぁなんということでしょう。

「アッ、ありがとう…ございますッ」
「いえいえ。お構いなく」
「ンッ…もう大丈夫です、はァん」

いや
まだ開始20秒もたってないけど

「あとちょっと我慢してろ」
「はっ、はぃ…ッ」

赤くてツルツルした肌。瑞々しく匂いたつ芳香。
熟れた林檎になってしまっためぐみに自然と笑いが漏れる。

轍を踏まないよう気をつけたのに、これじゃあな
お前の過敏さがいっそ長所に思えてくる

「はいよ。終了」
「ぁ…はい、ンッ…ん」
「おいおいっ、足元フラついてんぞ。大丈夫か?」
「んッ…逆上せたかもです」

風呂上がってすぐは平気そうだったぞ

まぁ言わないでいてやるけど

少し長めなパジャマの裾を引きずってドライヤーを片付ける。戻ってきためぐみは林檎色から桃色になっていた。

「ハァ…ありがとうございます。気持ちよかったです」
「おう」

気持ちよかったのか

そうゆうことをそうゆう顔で言われると弱い

めぐみが指先で髪を耳にかけて小首をかしげる。でも光沢のあるキューティクルに負けて耳から滑って落ちた。
俺はそれを笑ってみたけど、きっと照れたような困ったような顔してたに違いない。



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