御役目終了 戦いが終わった後、一行は近くで見つけた魔物避けの結界陣に簡易テントを張り、一時休息を取った。 その際、ウィズが配った滋養供給・疲労回復効果の高い特製薬湯の強烈な匂いに、全員の顔が青ざめたのはちょっとしたおまけ話だったりする。 そして――… 「ついたよー」 吊橋を渡り、一行の前に石碑が現れると、ウィズは笑いながらそう言った。 つまり、ここが――… 「ここが、試練の山の頂上――…」 思わず、セシルは目の前の光景に息を呑む。 そこから見える景色は、今まで見たどんな絵画よりも美しく感じた。 青々と茂る美しい緑、雄大に広がる蒼い海や河、それらを包み込む柔らかい青空。 別名・死の山と恐れられるこの山には、これほど美しい宝が隠されていたのだ。 だが――… 「なぁ…この後どうすんだ? どうすりゃ、あんちゃんはパラディンになれるんだよ?」 そう。問題はそこだ。 自分は、パラディンになる為にここに来たのだ。 だが、頂上まで来たというのに、セシルには何の変化も無い。 否、そもそも具体的な方法など始めから誰も知るはずがない。 何故なら、パラディンは伝説と呼ばれるほどの存在。 直接、その存在を目にした事がある者はいないのだから。 そこまで考え、セシルはハッとなる。 まさか――… 「ううん。まだしれんははじまってないよ。しれんはいまからはじまるんだから」 ウィズの言葉に、全員がえ?と振り返った。 「ぼくのやくめはあんないやく。だから、いっしょに行けるのはここまでだよ」 次の瞬間、セシル達の目に入ったのは石碑から放たれる閃光だった。 あまりの眩しさに思わず目を庇う中、何故か頭の中にはウィズの声が響く。 「だいじょーぶだよ。あとは“あのひと”がやってくれるから」 やがて光は徐々に収まり、辺りは何事もなかったかのように静寂に包まれた。 そこには変わらず、石碑と、そしてウィズが佇むだけだった。 「…いってらっしゃい。がんばってね」 山頂で、ウィズは柔らかく微笑みながら石碑を見守る。 そして、石碑の前に座り込んだ。 彼らが必ず帰って来る事を、確信しているから。 [*前へ][次へ#] |